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Tuesday, March 31, 2020

「料理のマスカスタマイゼーション」を目指してロボットまでつくる、ある有名シェフの挑戦|WIRED.jp - WIRED.jp

科学を応用した分子ガストロノミーと呼ばれる調理法で知られ、英国で最も有名なシェフのひとりであるヘストン・ブルメンタール。そんな彼が、このほどロボットを開発するスタートアップに参画した。新しい挑戦の目標は、料理のマスカスタマゼーションを実現させることにある。

WIRED(UK)

Heston Blumenthal

実験好きで知られるシェフが、サンドイッチやサラダの“マスカスタマイゼーション”を目指すスタートアップのKarakuriに役員として参画した。PHOTOGRAPH BY DANIEL STIER

英国で最も有名なシェフのひとりであるヘストン・ブルメンタールは、小さなノートをパラパラとめくっている。そのノートにはスケッチのほかに、美しい筆跡のメモが書かれている。

そしてあるページで手を止め、肉太の線で描かれた複雑な殴り書きを指し示した。よく見ると、人間の頭蓋骨の形であることがわかる図だ。「23度なんです」と、ブルメンタールは言う。「背骨が頭蓋骨に入り込む角度は、地軸の傾きと同じなんですよ」

分子ガストロノミーと呼ばれる科学を応用した調理で知られるブルメンタールは、料理に対する科学的かつ多感覚的なアプローチで批評家から絶賛されている。レストラン「The Fat Duck」と「The Hind’s Head」、そしてロンドンの「Dinner」で、彼はミシュランの星を合計6つ獲得している。

ブルメンタールの料理の特徴は、普通とは違う驚きだ。タンジェリン(オレンジの一種)の形をした鶏レヴァーや、トランプの形をしたチョコレートといった料理が有名である。

次なる挑戦はロボットづくり

ブルメンタールは、いろいろなものに幅広く関心を寄せている。彼の会社を数時間かけて案内してもらったのだが、その間に会話の中身は目まぐるしく変わった。トキソプラズマ症(人間が感染すると神経系に問題を起こしうるネコ由来の寄生虫)から恐怖政治、飛行機の機内安全ヴィデオへのイライラまで、といった具合である。

そんなブルメンタールの最新の取り組みは、ロボットづくりだ。彼は2019年10月、ロンドンに本拠を置くKarakuriの役員に就任した。レストランの厨房にロボットアームを導入しようとするスタートアップだ。

共同創業者のバーニー・ラグとサイモン・ワットは、チップメーカーのARMや音楽業界のユニバーサル ミュージック グループで働いていた。「lastminute.com」の共同創業者で「Founders Forum」の議長を務めるブレント・ホバーマンの支援を受けているKarakuriは、これまでに700万ポンド(約9億6,100万円)以上の資金を調達している。西ロンドンのハマースミス近くにある元自転車工場で、従業員20人が働いている。

デモンストレーションのひとつではロボットアームが回転・旋回し、自動販売機から量り売りのお菓子を集めている。別のデモンストレーションでは、正確な量のヨーグルトとグラノーラがシリアルボウルに入れられていく。

このシステムは、最終的にはレストランやカフェ、サンドイッチショップでの食品のマスカスタマゼーションを可能にするだろうと、ラグは言う。そのうち大手サンドイッチチェーンでも採用されるかもしれない。

「人々はアレルゲンに敏感になっていますし、食べ物で意識にどういう影響があるかについても敏感になっています」と、ラグは言う。「そのせいで食品業界は日々、大きなプレッシャーを受けています。以前よりも配慮がたくさん必要になるからです」

Heston Blumenthal

PHOTOGRAPH BY DANIEL STIER

さらなる食のカスタマイズのために

Karakuriの技術は、工場の組み立てラインにある既存のロボットアームをベースにしている。そのなかで鍵を握る強みは、ロボットアームまわりのインフラ開発と、さまざまな特性をもつ異なる食材を扱えるディスペンサーづくりだろう。

例えば10gのマヨネーズを絞り出すには、容器をきっちり何秒だけ押せばいいのか。あるいは、ハチミツの粘度が保管時の温度によってどう変わるかといったデータだ。

ネットスーパーのOcadoはKarakuriに600万ポンド(約8億2,400万円)を投資し、近いうちに実験用キッチンに1台のロボットアームを導入する。注文に応じて食事をカスタマイズし、家庭に配送できるようにするのが狙いだ。

だが、いまのところKarakuriが焦点を絞っているのは、注文品を素早くつくって提供しなければならないタイプの店の問題解決である。人々が昼休みにサンドイッチを買いに立ち寄るような店のことだ。「こうした飲食店は性質上、仕事がとても反復的でつらいものになり得ます。注文に合わせたカスタマイズを強化する動きは、こうした仕事をより退屈で難しいものにしてしまいます。結果として人々は、この手の仕事を選ばなくなります」と、ラグは指摘する。

チェーン店やスーパーマーケットは、特定の日にどんな具材のサンドイッチが売れるのか、うまく予測できるようになっている。だが、それでも間違うことはある。「フードチェーンでは大量の無駄が出るのです」と、ラグは言う。

ロボット工学とAIのインパクト

こうしたなか、カスタマイズは効率の改善に役立つ。現場にセンサーを採用することで、ロボット工学はビッグデータの利用を加速させるだろうと、ラグは語る。「ものがどこにあるのか、それがどのような状態にあるのか、いつ育てられたものなのか、それらを知ることが重要です。データによって得られる利点の多くは、サステナビリティにかかわることなのです」

ブルメンタールは最終的には、ロボット工学と人工知能(AI)がより大きなインパクトをもたらしうると期待している。「わたしたちは食べ過ぎています。食べ物に感謝せず、食べ物を捨てています。わたしたちは食べ物との関係を変える必要があります」

コネクテッドセンサーとロボット工学は、さまざまな未来を実現できる。例えば、体や腸内細菌が特定のタイプの食べ物にどう反応するかをリアルタイムで追跡したり、心の幸福度に応じて食事内容が自動的に考えられたりするようなことだ。

しかし、それは「食べるべき食品」を人々に“処方”するようなものであってはならないと、ブルメンタールは言う。「スピルリナを食べろとか、砂糖を飲んだり食べたりしてはいけないとか言っているわけではありません。ただ、自分の姿を鏡に移し、自分自身をもっとよく知る機会を提供するということなのです」

人間には人間の仕事を

サンドイッチやサラダだけの話ではない。ミシュランの星を獲得するレヴェルのシェフたちもロボット工学によって、より自由でクリエイティヴになれるとブルメンタールは言う。つまり、人間には不可能なレヴェルで正確に測ったり、常に一定に複製したりといった、以前にはできなかったことに挑戦できるようになるというのだ。

「知らず知らずのうちにわたしは、いま世界に存在するなかでも最も一貫して正確で、リニアに駆動されるレストランシステムをつくっていたのです」と、ブルメンタールは言う。「これからは、ロボットのほうがはるかにうまくできる計測はロボットにやらせて、人間には人間の仕事をしてもらいましょう」

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