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Thursday, July 29, 2021

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん - 朝日新聞社

3週にわたってスパイス料理研究家・印度カリー子さんのお弁当レシピを紹介してきました。今週は、カリー子さんへのインタビュー。代表取締役をつとめるスパイス専門店でのチャレンジや、カレーを「文化」にするという大きな夢を語ってくれました。

大学1年生のときにスパイスカレーと出会って以来、様々な媒体でスパイスの魅力をアピールしてきた印度カリー子さん。10代で初心者向けのスパイスショップを開店し、2019年には22歳にして運営会社「香林館」を立ち上げた。ところが、ビジネスの面では、若さゆえ壁にぶつかることもあったという。

いまでこそわかりますけど、学生は本当に責任がないんですよね。社会的信頼度もない。お金もない。気持ちしかない。でもそれを証明するものもない。もう、どうしようもなかったんですよ。スパイスの個包装をする会社っていっぱいあるんです。ネットで調べて片っ端から電話をかけても、断られたり無視されたり、もしくは「誰が責任とるんですか?」って言われたりしました。これは「責任は自分がとります」って言っても何も始まらないことなんだ、ということに気づかされました。

そういうとき、ある人からの紹介で地元(宮城)の障害者施設を訪れたんです。そこで断られたら諦めようと思って行ったら、二つ返事で「やりましょう!」と言ってくれて。もう神様なんじゃないかなと思いました。

その工場自体に信頼があったのと、あとは知り合いの、知り合いの、知り合いの、知り合いくらいの30歳のフリーランスの男の人に出会ったことも大きかったです。それがいまのマネジャーなんです。

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん

製造を始めて最初のうちはスパイスの売れ行きは好調だったんですけど、製造が追いつかなくて、ずっと売り切れが続いていたんです。私も大学の勉強が忙しくて管理できていなくて。そしたら、その“知り合いの、知り合いの、知り合いの、知り合いくらいの人”が「ちょうど会社を辞めてたっぷり時間があるから、製造の管理をしますよ」って言ってくれたので、会った翌日に、よくわからないけどとりあえず契約しました(笑)。

カラッと笑うカリー子さんに、思わず「知らない人に会社を任せるなんて……」などと諭したくなるが、向こう見ずにチャンスに飛びつけるのも若いときの特権。それに、これほど無邪気にスパイスを探究する彼女のことだ、応援したい、一緒にやってみたいという人が引き寄せられるのは、ある意味当然のことかもしれない。

彼はすごい良心をもった人で、契約したもののお金をほとんど渡してないのに面白いからっていう理由で製造を安定化させてくれて、さらにその人は大企業で営業成績がトップだったくらい営業の能力があったようで、何も言ってないのに勝手に東急ハンズに行って営業して、ある時いきなり「東急ハンズに置くことが決まりました」とメールをくれたこともありました。今では本当に欠かせないビジネスパートナーですね。

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん

ショップでは、「どのスパイスをそろえればいいかわからない」という初心者の悩みに寄り添い、必要な種類を使い切れる分だけそろえたスパイスセットを扱う。カリー子さんが発信するレシピも、初心者のための手軽なレシピばかりだ。

初心者がわからないレシピっていうのは、いまの段階では必要じゃないと思っています。あと5年後には必要になるかもしれないですけど、現状から考えればまだ早いですね。いまはちょうど、スパイスへの認知が高まっている状態。この状態が2、3年続くと、一般家庭でもスパイスカレーがよく作られるようになります。家庭で作られるようになって5年目くらいになると、2人に1人くらいが1回は作ったことがある、スパイスを買ったことがあるという状態になると考えられます。

そうすると5年前にすでに始めていた人たちが、初心者のレシピに飽きてくるんですね。そしたら今度は、そういう人たちに向けて新しく上級者レシピとかアレンジレシピとかを出すことによって、よりクリエーティブなレシピが生まれていく。するとその人たちが発信者になり得るので、さらに拡大して広がります。

いまはまだ、上級者の層が非常に少ないので、その人たちに訴えかけようとすると、これから初心者になろうとしている人たちがそれを見てしまって「スパイス料理は難しい」となってしまう。一度失敗すると、二度と作らなくなりますよね。

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん

「初心者向け」にこだわる理由を語る口調は滑らかで、メモを取る手が追いつかないほど。それは彼女自身、この未来予想図を何度となくなぞっているからだろう。

文化として根づくのには10年くらい必要だと考えていて。10年っていうと、私は29歳。20代のうちに達成したい目標の一つが、スパイスカレーを日本の家庭料理の文化にすることだと考えています。

登山で例えると、いまはまだ2合目とか3合目とか。だっていま周りの人に「スパイスカレー作ったことある人?」って聞いたら、20人いて1人いるかどうか、5%以下ですよね。自分が中心になって発信してるから、あたかもブームが起こってるかのような錯覚を起こしてしまうんですが、一番中心にいる人間はできるだけ客観視しないとダメで、まだまだだと思います。

街を歩いてる人の2人に1人が作っているくらいが理想的な状態です。たとえばコンビニにスパイスが置かれている状態。オリーブオイルはすでにありますね。でも10年くらい前は、サラダ油はあったけどオリーブオイルはないっていう状態だったと思います。グラノーラバーもそうですよね。10年前はなかった。やっぱり必要とされれば置かれるわけですよ。だからコンビニにスパイスが置かれるっていうのは一つ、ブームが体現された状態といえます。あとはスパイスカレーの大手チェーン店ができてもいいかもしれないですね。

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん

大きな夢、具体的な理想、年単位のビジョン。カリー子さんの話を聞いていると、スパイスがカレールーのように身近になる未来が、くっきりと浮かび上がってくる。

長期的なビジョンはそうでも、毎年どれくらい状況が進むかっていうのは想像ができないんですよ。たとえば1年目はまったく誰も興味をもたなかったし、2年目は印度カリー子って名乗ってること自体、友達にバカにされてたんですよ。ところが、3年続けると世界は変わってくる。普通にお仕事が来るようになります。それを続けていると、4年目くらいからは手伝ってくれる人が出てきます。そこからはもうすごくスピードが速くて、一緒に広げる人たちがどんどん多くなって、5年目にはテレビのコーナーができるまでになってる。

これは絶対自分ひとりじゃできなかったですし、それこそ19歳とか20歳とか料理学校も通ったことない信頼度の低い人間に仕事を任せてくれた人たちがいて、それを広めてくれた人たちがいて、どう考えても回りの人たちが本当に無条件に支えてくださっているからです。そういう一人ひとりがいっぱいいてくれたからこそ今がある。本当に今、自分が大好きなものを仕事にできていることが、奇跡くらいに思えるんです。

印度カリー子さんインタビュー「カレーに人生を変えてもらった」はこちら

スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん

PROFILE

印度カリー子

スパイス料理研究家。1996年11月生まれ、仙台出身。スパイス初心者のための専門店香林館(株)代表取締役。スパイスセットの商品開発・販売をする他、大手企業とのレシピ開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動。2021年3月東京大学大学院農学生命科学研究科修了。
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スパイスカレーを日本の家庭料理の文化に 印度カリー子さん
発行:世界文化社

一肉一菜スパイス弁当
1,540円(税込み)| 著:印度カリー子

スパイス弁当で「おいしい・簡単・ヘルシー」を実現! 人気スパイス料理研究家の印度カリー子さんが、初の弁当本を出版しました。昨今、大注目の「スパイスカレー」。そのヤミツキになるおいしさで注目を集めています。スパイス料理は時間がたつと調和が生まれて熟成したようなおいしさになるなど、お弁当に向いている要素が満載 なんです。いつものお弁当じゃ物足りなくなった人、そしてスパイスを愛するすべての人に捧げる一冊です。

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