ここ数年、料理レシピ動画市場は急成長しており、Tastyは火付け役とも言える存在だ。もともとはFacebookやYouTubeでレシピ動画を提供するにとどまっていたのだが、最近ではブランド力を生かしたライセンス販売にも注力している。Tastyのビジネスモデルから学べることは多く、食ビジネスに携わる者であれば動向をチェックしたい。
2016年に日本上陸 インスタのフォロワーが国内2位に
Tastyとは、米国のオンラインメディア「Buzzfeed(バズフィード)」が提供するレシピ動画である。視聴者が気軽に見られるよう動画の尺は1本2〜3分とコンパクトにまとめられ、どの動画においても色鮮やかで、シズル感の演出も見事だ。見ているだけでお腹が減って、料理がしたくなる。
TastyのYouTubeチャンネルでは、3000本以上のレシピ動画がアップされている。登録者数は1700万人超。さらに、展開しているのはYouTubeだけではない。ベジタリアン向けコンテンツを発信する「Tasty Vegetarian」のFacebookアカウントのほか、インスタグラム、TikTok、Twitterなど複数のプラットフォームで事業を展開する。分散的にSNSを運用することで、ユーザー接点を多く持つ戦略だ。
さらにTastyは現在、米国、英国、ブラジル、ドイツなど、グローバルな事業展開にも注力。地球上のあらゆる人々にリーチするその影響力は、日に日に増していると言ってもいいだろう。
2016年8月には日本版Tastyである「Tasty Japan」がスタート。現時点でインスタグラムのフォロワー数は600万人を超え、日本で2番目にフォロワーが多いアカウントだ。
Tasty Japanでは、日本独自の調理法や調味料を使ったレシピ動画を数多く配信している。それらの動画は日本国内だけでなく、世界各国にまたがるTastyのプラットフォームにも流れていく。世界的な和食ブームも相まって、視聴回数は好調だ。
米国のTastyはブランド力を活用した多角展開にも乗り出す
Tastyがすでに世界的なインフルエンサーであることはお分かりいただけたと思うが、事業は動画配信だけにとどまらない。次の展開として取り組んでいるのが「Tastyブランド」の活用だ。米国においては、世界最大の小売大手ウォルマートと提携し、Tastyブランドを冠した料理本や料理グッズなどを販売している。
さらに、ユーザーはTastyのアプリで気に入ったレシピを見つけたら、その材料をオンラインで注文することも可能だ。アプリ内で注文した食材のデータは、ウォルマートの買い物アプリに送信され、それが自動でカートに入れられる。金額や場所など、いくつかの条件を満たせば、宅配サービスも受けられる仕組みだ。
レシピを考えるところから、料理を実際に作るところまでの一連の流れがシームレスにつながる。企業にとっては収益最大化のメリットに加えて、秀逸なCRM (カスタマーリレーションシップマネージメント)を築くことができる。集積した顧客データが、新たなレシピ、さらなる顧客ロイヤルティーの醸成を生む。
米国と同じ流れが日本でも起こるか
日本でTastyが登場してまだ5年も経っていない。にもかかわらずSNSでの求心力は、かなりのものにまで成長している。ハットグやタピオカのような食の一大ブームが、Tasty発信で生み出される日もそう遠くないかもしれない。
さらにTastyブランドが日本国内で定着していけば、米国のような事例が出てくることも大いに想定される。
ITを自由に利用できる人の割合は、今後も相対的に増えていく。共働き世帯増加のトレンドも加味すれば、「料理にまつわる家事をすべてオンライン上で済ませたい」というニーズも今よりもさらに大きなものになっていくだろう。すでに知っていた方も、初めて知った方も、Tastyの今後の動向に注目だ。(IT×フードライター 小林悠樹)
コラムニスト
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March 27, 2020 at 02:00PM
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