探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星「りゅうぐう」の砂の化学分析から、りゅうぐうの起源が分かってきました。砂の主な成分は、約46億年前に太陽系が誕生してから約500万年後、温度約40度の水と反応してできた鉱物でした。全体の重量の約7%という多量の水も含まれていました。今後の詳細な分析で、太陽系の起源にも迫れると期待されています。 (増井のぞみ)
地球に落ちた隕石(いんせき)のうち「炭素質隕石」と呼ばれる種類は炭素や水を多く含む岩石で、りゅうぐうはこの隕石と同じ成分を持つと予想されていました。こういった水を豊富に含む小惑星が地球に落ちることで海ができたという説もあり、海の起源を探るという意味から「りゅうぐう」と名付けられました。
化学分析の結果、りゅうぐうの砂は主に、水を取り込んだ岩石の「粘土鉱物」、炭酸水を取り込んだ「炭酸塩鉱物」、鉄と硫黄の化合物「硫化鉄」などでできていると分かりました。
◆40℃の「温泉」
東京大の橘省吾教授(宇宙化学)は「これらの鉱物は約四〇度の水中で反応してできたと考えられる」と話します。当時のりゅうぐうはミネラルの豊富な温泉のような環境だったといいます。
一方、初代はやぶさが微粒子を持ち帰った小惑星イトカワにはほとんど水が見つかりませんでした。北海道大の圦本尚義(ゆりもとひさよし)教授(宇宙化学)は「イトカワは八〇〇度にも加熱され、水が失われた可能性がある。りゅうぐうは一〇〇度以上にはなっていないようで残っている」と温度の違いを語ります。
水(H2O)は、酸素原子(O)一つと水素原子(H)二つが結びついてできています。りゅうぐうの水分の大半は、水分子から水素が一つ抜けた形(OH)で鉱物の内部に含まれていました。砂を加熱すると、閉じ込められていた水が通常の形(H2O)になって水蒸気として出てきました。
りゅうぐうの砂に水が含まれていることは分かりましたが、地球の海の水とは酸素の同位体比が違いました。酸素原子にはわずかに重さの違う三種類の同位体があります。それらの同位体がどういう比率で混じっているかを調べると、試料の砂と海水とでは比率が異なりました。圦本さんは「りゅうぐうと同じタイプの小惑星の水だけでは地球の海にならない。他のタイプの小惑星や彗星(すいせい)などに含まれていた水が混ざったのかもしれない」と話します。
今後は水素原子も調べるといいます。圦本さんは「りゅうぐうを詳しく知ることで、海の起源にさらに迫れるだろう」とみています。
◆超レアで新鮮
また、りゅうぐうの砂から見つかった六十六種類の元素の濃度は「イブナ型」と呼ばれる炭素質隕石の一種とほぼ同じでした。イブナ型は太陽系が誕生してまもない時期の痕跡を残していると考えられる重要な隕石です。太陽系全体の質量の99%を占める太陽と同じ組成と考えられています。ただ、非常に希少で、これまで地上で見つかった約七万個の隕石のうちイブナ型はたった九個しかありません。
橘さんは「イトカワの試料は地上で最も多いタイプの隕石と同じ組成だった。今回は一番レアな隕石と同じ。隕石研究に大きく貢献できる」と話します。
りゅうぐうと同じ組成の小惑星は、火星と木星の間の小惑星帯で最も多いと考えられています。なのにイブナ型の隕石が地上でほとんど見つからない理由は、「もろくて燃え尽きやすく地上まで到達していないから」と橘さんは推測します。
地球のイブナ型隕石は、りゅうぐうの砂にない鉱物や倍以上の多くの水を含んでいます。これらは地球に由来すると考えられます。圦本さんは「イブナ型隕石が白っぽいのは、地球の水や鉱物で汚染されていたからだと分かった」と解説します。
これに対しりゅうぐうは真っ黒なので、はやぶさ2が接近するときレーザーを照射して高度を測るのに苦労しました。元宇宙航空研究開発機構(JAXA)の照井冬人さんは「黒かったのは、地球で汚染されていなかったからか」と納得します。
圦本さんは「りゅうぐうは新鮮なイブナ型隕石だと言える。りゅうぐうの元素組成を精密に調べることで、太陽系がどんな物質からできているかが、より正確に分かる可能性がある」と強調します。別の岡山大のグループは、りゅうぐうの砂から有機物のアミノ酸を検出しました。太陽系の起源にどこまで迫れるか、今後の研究が楽しみです。
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