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Monday, August 22, 2022

深海探査で変わる生命観 - 日経サイエンス

深海探査は過去50年以上にわたって新発見の源泉であり続け,海と陸,さらには地球外の生命に関する私たちの考え方を変えてきた。次の3つの事例を考えてみよう。

1968年10月16日,米マサチューセッツ州ナンタケット島の沖100マイル(約160km)に停泊していた調査船と潜水艇「アルビン号」をつなぐケーブルが切れた。潜水艇は水深1500mを超える海底へ沈んだ。幸い,3人の乗組員は安全に脱出した。その1年近く後,アルビン号が引き揚げられた。最大の驚きは,乗組員が持ち込んでいた昼食(プラスチック容器に収めたボローニャサンドイッチとリンゴ)が素晴らしく保存されていたことだった。微生物検査と生化学検査により,良好な保存状態が確認された。これを実際にひとくち食べた者もいた。

ウッズホール海洋研究所でその後に行われた実験によって,この回収物の微生物による劣化が従来予想よりも10~100倍遅かったことがわかった。これらの発見から,深海の生物の代謝と成長速度は海面近くにいる類似の生物種に比べてずっと遅いとの結論が導かれた。

1977年,回収されたアルビン号で潜航していた科学者たちが別の歴史的発見をした。海底に突き出した高温の熱水噴出孔の周囲に生物が群れている様子を初めて実際に観察したのだ。これによって,地球上のすべての食物網が光合成(日光のエネルギーを用いて二酸化炭素と水を複雑な炭化水素類と酸素に転換する過程)を基礎にしているという長年の見方が覆された。熱水噴出孔の生物とその生態系は完全な暗闇のなか,噴出孔からの熱水に含まれる化学物質を生命維持に必要な物質に変えて繁栄している。現在では「化学合成」と呼ばれるようになったプロセスだ。 

まだ不足なら,私も参加した1993年の調査が従来の誤った思い込みを暴いた例がある。私たちは1つの重要な熱水噴出孔生態系を東太平洋海膨で発見した。この系はわずか2~3年前の海底噴火によっていったん破壊されたのだが,すでに多くの生物が再びすみ着いていた。深海でのボローニャサンドイッチの腐敗が非常に遅く1年後でも食べられた一方で,深海の生物活動が非常に速い例もあることが判明した。

続きは2022年10月号にて

著者

Timothy Shank 

ウッズホール海洋研究所の生物学者で,分子生態学・進化研究室を率いている。深海ゲノムプロジェクトの共同代表でもある。

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深海底のロストシティーが語る生命の起源」A. S. ブラッドリー,日経サイエンス2010年3月号
極限微生物が変えた進化観 深海に探る生命の起源」,高井 研,日経サイエンス2022年1月号

原題名

Turning the Tide(SCIENTIFIC AMERICAN August 2022)

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熱水噴出孔化学合成オスモライト

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