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Sunday, August 14, 2022

月軌道の宇宙ステーション「ゲートウェイ」について、いま分かっていること - GIZMODO JAPAN

今後の宇宙探査の鍵となる中継基地。

NASAには、各国&民間のパートナーたちと共に小さな宇宙ステーションを組み立てるという壮大な計画があります。月周回有人拠点「ゲートウェイ」という拠点案は月面及び月周辺でのミッションをサポートし、科学実験を行なうための唯一無二のプラットフォームとなるでしょう。この宇宙ステーションについて現時点で分かっていることと、宇宙探査における次の大きな飛躍にどう貢献するのかをまとめました。

私たちはこれまで人類を月面に送り、地球低軌道に宇宙ステーションを建設し、探査車を火星に着陸させ、太陽系の果てへの旅に探査機を送り出してきました。すごいことには間違いありませんが、宇宙関連のTo-Doリストにはやることがたくさん残っていて、その中でも特に重要なのが月軌道上のステーションの建設です。まだ実現できていないなんてひどい見落としのようですが、それが現在の状況です。

なぜ月の宇宙ステーションが必要なの?

間もなく始まるアルテミス時代は、月の宇宙ステーションをようやく建設する口実をNASAに与えました。NASAが月面と月周辺に持続可能な人類の駐留拠点を建造するという目標を明言したことを考えれば、口実というよりむしろ必要に迫られて…という感じでしょうか。NASAは早くて2025年に人間を月面に降り立たせることを目指していますが、このアルテミス3ミッションは氷山の一角にすぎません。

アルテミス・ベースキャンプという、月面居住棟や与圧ローバー、機敏な月面探査車(LTV)で構成される月面基地の計画も進められています。その後に続くインフラでさらなる月の探査を行なえるようになりますが、こういったミッションの間に培われる経験とテクノロジーが人類にとっての次の大きな飛躍、すなわち火星への有人ミッションを可能にするはずです。しかし、このどれもが月の宇宙ステーションなくしては実現できないのです。

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完全形態のゲートウェイに接近するNASAのオリオン宇宙船
Image: NASA/Alberto Bertolin

NASAが2018年の覚書で説明したように、ゲートウェイは「人類の宇宙探査のゴールを推進&支えるための要であって、人類の月‐地球間のオペレーションや月面アクセス、火星へのミッションのためのアーキテクチャにおける出発点」になります。月軌道に配置されれば、国際宇宙ステーションの6分の1の大きさで多目的なゲートウェイは、月面への有人ミッションのサポート、科学実験を行なうためのプラットフォーム、そして近隣の小惑星や彗星を研究する探査機などを含む深宇宙へのミッションを展開するための足場を提供するでしょう。

ゲートウェイはどこに設置される?

現時点では、ゲートウェイを月長楕円極軌道(near-rectilinear halo orbit、NRHO)上に設置する予定。NRHOは地球と月の重力の平衡点に位置する、燃料消費が少なく済む軌道です。重力によって安定していることに加えて、軌道面は常に地球を向いているので、ゲートウェイのクルーと故郷の地上局との通信は常時確保されるそう。

NRHO軌道
NRHOは月の周囲をまわる楕円の軌道。楕円の中心は月と地球のあいだにあり、地球に近づいたり離れたりしつつ、月の周囲をまわります。
Graphic: NASA

NRHOは極端に楕円形なので、欧州宇宙機関(ESA)いわく近月点は1865マイル(約3000km)、遠月点は4万3500マイル(約7万km)になるとのこと。軌道を1周するには1週間ほどかかります。

現在、現地時間の6月28日に打ち上げられた、探査機「CAPSTONE」が月に向かっています。この小型衛星は11月13日にNRHOに投入予定で、この軌道に入る初の人工物となるでしょう。CAPSTONEは他の探査機との位置関係を活用する新たな航法システムの試験に加えて、この軌道がゲートウェイに適しているかどうかの立証も行ないます。

ゲートウェイはどうやって建設されるの?

NASAとSpaceXはパワフルなロケットを所有していますが、全部(あるいは部分的にであっても)組立が済んだ宇宙ステーションを打ち上げられるロケットは存在しません。そのため、他の宇宙ステーションと同様に、いくつかのフェーズに分けて宇宙で建設する必要があります。

最初のコンポーネントは早くて2024年に月軌道に達し、1972年12月のアポロ17号ミッション以来の月への有人ミッションとなるアルテミス3のお膳立てをするかもしれません。(とはいえ、NASAの宇宙船「オリオン」は現時点の予定ではSpaceXのStarshipが担う有人着陸システムHLSとドッキングする可能性もあるので、アルテミス3はゲートウェイに左右されるわけではない)。ステーションは月近傍でさらに構築が進められ、個別のミッションに合わせてほんの少し軌道調整を実施します。NASAはゲートウェイ実現のために国際的かつ民間のパートナーの両方と提携しており、プロジェクトに2023年の予算から7億7900万ドルを割り当てています。

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カナダ宇宙庁のCanadarm3を描いたコンセプト・アート
Image: CSA/NASA

第1フェーズでは、電力と推進を提供するモジュールと有人活動をサポートするモジュールが結合されます。ゲートウェイでの名称はそれぞれ、「電気・推進エレメント(Power and Propulsion Element、PPE)」と「居住・ロジスティクス拠点(Habitation and Logistics Outpost、HALO)」。NASAは2024年5月以降に、SpaceX社のFalcon Heavy(ファルコンヘビー)ロケットの1度の発射で、一体化させたPPEとHALOを打ち上げたいと望んでいます。なお、コストは3億3180万ドル。その後の打ち上げは、新コンポーネントの追加や物資の輸送などでゲートウェイをサポートするでしょう。

ゲートウェイの大きさは?

最初の5つのモジュールはPPEとHALO、国際居住棟、燃料補給系、エアロックのモジュールで構成され、ロボットアームも備わります。これらのモジュールの重量は合わせて40トンになるそう。慎ましいスタートですが、そのうちもっと大規模なステーションを建設する際にはこういった中核を成すコンポーネントが基盤の役割を果たすのです。

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提案されているゲートウェイのモジュール
Graphic: NASA

ESAによると、ゲートウェイは4名の宇宙飛行士が90日間滞在できるとか。HALOモジュールだけでは宇宙飛行士たちに十分なスペースを提供できないため、追加居住モジュールが必要となり、ESAが開発を担います。2つのモジュールを合わせれば計4414立方フィート(約125立方メートル)と、おおよそ2階建てバスほどの広さの居住空間になります。

どんなコンポーネントがある?

PPEは電力の供給、高速通信、姿勢制御や軌道変更といった操縦能力を有する出力50キロワット級の太陽電気推進宇宙船。

コロラド州のMaxar Technologies(マクサー・テクノロジーズ)は2019年に、PPEを開発・製造する総額3億7500万ドルの契約をNASAと結びました。このモジュールは太陽パネルを使って拠点に必要な電力を生成します。

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電力・推進エレメントのコンセプト・アート
Illustration: NASA

NASAは居住可能な与圧されたモジュールHALOの建造にはNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)を指名。ヴァージニア州に本社を構える同社は、2021年7月にNASAとの9億3500万ドルの固定価格契約をまとめました。HALOは同社の既存補給船Cygnus(シグナス)モデルにしていて直径は同じですが、全長は20フィート(6.1メートル)と、クルーを収容するために3フィート(1メートル)ほど長くなっています。

HALOは宇宙飛行士たちが生活、仕事、研究そして睡眠をするための場所を提供します。彼らが科学実験を行ない、月面へとクルーを送り出し、地球にいる地上局と通信する空間となります。

居住モジュールにはコマンド・コントロール・ステーションが置かれ、有人宇宙船(特にオリオン)や月着陸船、補給ミッションの発着を支援するドッキングポートも備えるでしょう。酸素の循環と飲料水の製造を含む、基本的な生命維持システムを搭載。

計画ではゲートウェイはこれから数年(願わくば)数十年と拡張することになっているので、当然ながらHALOは居住空間を増設できるようになっています。

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居住・ロジスティクス拠点(HALO)のイラスト
Illustration: NASA

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、PPEの太陽電池アレイが展開される前及び蝕の間HALOを動かすためのバッテリーを提供します。カナダ宇宙庁はロボットアームCanadarm3という形でゲートウェイに貢献。この賢いロボティックシステムは長さ28フィート(8.5メートル)のアームと、もっと手先が器用なアーム、それに取り外し可能なツール一式がセットになっています。

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ESAのI-HABのコンセプト・アート
Image: ESA

ESAのモジュールESPRIT(European System Providing Refueling, Infrastructure and Telecommunications、燃料補給、インフラと通信技術を提供する欧州のシステム)は、ゲートウェイと月面で働くチームとの間の高速データ通信を提供します。補給燃料と科学機器用エアロックも備える予定。ESPRITには国際宇宙ステーションのキューポラに似た展望窓が付きます。

ESAとJAXAは2つ目の居住モジュールI-Hab(International Habitation module、国際居住モジュール)も担当しています。このモジュールはクルーが暮らし、働き、科学実験を実施するための追加スペースを提供。Thales Alenia Space(タレス・アレーニア・スペース)が建設していて、アルテミス4ミッションの一環として2026年にゲートウェイに届けられるかもしれません。

遥か彼方にあるゲートウェイをどうサポートする?

平均距離は23万9200マイル(約38万5000キロメートル)と、月は厳密に言えば近いわけではありません。ゲートウェイのパートナーたちが認識しているように、ミッション中の宇宙飛行士たちを支える鍵となるのは物資輸送です。さらに言えば、深宇宙に供給網をもたらすという経験は火星を目指す未来のミッションの基盤を成すかもしれません。

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ゲートウェイと、ドッキングのために近づくSpaceXのDragon XL補給船のイラスト
Illustration: NASA

2020年、NASAがGateway Logistics Services契約を獲得した米国の民間業者第一号として発表したのはSpaceX でした。イーロン・マスク氏率いる同社は、この契約の下で貨物などの補給品を月の宇宙ステーションに届けることになります。

SpaceXは与圧・非与圧、どちらの貨物も拠点に輸送します。NASAはアルテミスの有人ミッション1つに付き、輸送が1回は必要だろうと予測。そのためにSpaceXは、補給船Dragon XLをFalcon Heavyロケットに載せて打ち上げます。Dragon XLは宇宙船Dragonの大型版で、ゲートウェイにドッキングされると6~12カ月間は停泊する予定。SpaceXによると、1機のDragon XLで5トン以上の貨物を届けられるそう。

JAXAも物資補給でのサポートに参入しようとしています。同機関は現在、HTV-X補給機をゲートウェイの補給ミッション向けにするための強化を検討しているとか。興味深いことにSpaceXのStarshipロケットも、もしかしたら物資輸送目的にも活用されるかもしれません。

ゲートウェイで行われるのはどんな科学研究?

多岐にわたります。もっとも明白なのは月や惑星の科学です。とはいえ、見晴らしの良いゲートウェイからは、NASAいわく「地球、太陽、月、そして地上や地球軌道からは考えられない宇宙空間の広大な眺望」のおかげで、地球科学、太陽系物理学、天体物理学に基礎物理学の研究も可能になるとのこと。

ゲートウェイのパートナーたちはすでに3つの科学機器を選定しています。NASAのHERMES(Heliophysics Environmental and Radiation Measurement Experiment Suite)とESAのESRA(European Radiation Sensors Array)は、ステーションの船外に取り付けられて太陽放射と宇宙天気を観測します。3つ目の機器は、ESAとJAXAが開発しているIDA(Internal Dosimeter Array)。NASAによれば、「放射線遮蔽の効果を研究し、ガン、心臓血管と中枢神経作用のための放射線物理学モデルを向上し、探査ミッションにおけるクルーのリスク評価を手伝う」とのこと。

ゲートウェイミッションは宇宙飛行士たちにとって危険なの?

宇宙へのどんなミッションにも、危険な要素はあります。地球の磁気圏の彼方というゲートウェイの配置は、クルーがISSに乗船している宇宙飛行士たちよりも有害な放射線を受けやすいことを意味します。

International Journal of Molecular Sciencesに掲載された2021年の研究いわく、「地球低軌道がもたらす保護を離れると、宇宙飛行士たちを(微重力などの)他のストレス要因に加えて、高集積線量の宇宙放射線に晒してしまうことは避けられない」そう。「免疫調節は放射線と宇宙飛行の両方から影響を受けることが分かっていて、深宇宙で出くわす持続的な作用が健康に悪影響を及ぼすかどうかはまだ分かっていない」とのこと。この研究によれば、地球低軌道の外側で想定される放射線は、細胞のミトコンドリアを害しDNA修復に長期的な影響を生む可能性が高いようです。それにNASAはこう書いています。

人体への放射線影響は月や火星へのミッションでは遥かに大きくなり、高エネルギー、荷電粒子への曝露はガンのリスク増加、運動機能と運動行動における変化、そして組織の変性など健康への悪影響を引き起こす可能性があります。宇宙飛行士たちが宇宙空間で安全に暮らし移動するために頼る乗り物と機器類への潜在的なダメージも、付加的なリスクに含まれます。

しかし公正を期して言えば、ゲートウェイでの長期的な滞在中に宇宙飛行士たちがどれだけ宇宙の影響を受けるのか、私たちは十分には分かっていません。アポロ計画でも宇宙飛行士たちは宇宙線を被ばくしましたが、それらのミッションは長くて11日間でした。長期間に及ぶゲートウェイのミッションは90日間以上に及ぶかもしれず、長期的な健康への影響を誘発する可能性が高いと言える時間の長さです。

それゆえ、科学者たちは潜在的な有害性を評価するために、ゲートウェイから帰還したクルーを注視することになるでしょう。その研究は、不利益な作用を最小限にする今後の取り組みに知見を与えてくれるでしょう。

今後数十年で、ゲートウェイはどうなる?

NASAの目的は月に到達して留まること。それには十分に頑丈で機能的な月の宇宙ステーションが求められるので、ゲートウェイが徐々に拡張されていく様子を見られるはず。そのうえゲートウェイはNASAが提案した深宇宙輸送機(火星へのミッションを発進する可能性あり)の足場としても役割を果たすかもしれません。ゲートウェイは迫りくる地球近傍天体のトラッキングに活用される可能性だってあります。

ポテンシャルは非常に高いので、ゲートウェイを私たちのニーズに応えてもらうため、そして太陽系(できれば以遠にも)での人類の行動範囲を広げるために最大限に活用できているかどうかは、時と共に明らかになるでしょう。

Source: NASA(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, ), ESA(1, 2, 3, 4, 5, 6,), the Verge, NASASpaceFlight.com(1, 2, ), Northrop Grumman, Canadian Space Agency, Lunar and Planetary Institute, JAXA, Twitter, Duke University, National Library of Medicine,

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