「グランド・セフト・オート」シリーズの新作を開発しているRockstar Gamesがハッキング被害にあい,開発途中のアニメーションやゲームプレイを収めたデモ映像各種やソースコードまでが流出したというニュースを先週の当連載で紹介した。この規模の人気作品ともなるとハッカーだけでなく,内部情報を入手して漏洩させる“リーカー”,DDoS攻撃でサーバー障害を発生させる“アタッカー”の存在も常になる。今回は現状の顛末を紹介しつつ,そうした昨今の問題について考察しておこう。
ハッカーやリーカーに悩まされるゲーム開発
先週の当連載「第736回:リークによって,そのベールを“脱がされた”「グランド・セフト・オート」新作」(関連記事)でもお伝えしたように,現在Rockstar Gamesが開発中であるという「グランド・セフト・オート」シリーズの新作情報がリークした。単なる情報のリークではなく,開発者がオンラインミーティングで擦り合わせを行うための90本にもおよぶデモ映像や,そのソースコードまでもが漏洩してしまったという。
容疑者としてイギリスで逮捕されたのは,このところ断続的にIT関連企業を狙っていたハッカーグループに属する17歳の未成年とされている。前作「グランド・セフト・オート V」は1億7000万本の販売本数という今世紀最大のヒット作であり,もしソースコードが奪われたのであれば大ごとだが,Rockstar Gamesはリークを認めたうえで,プロジェクト自体は「計画どおり」に進んでいると表明している。
今回の騒動については,「グランド・セフト・オート V」のソースコードまでもが盗まれて,逮捕前に別のハッカー集団に売却されたという報道が出回ったが,現時点では“証拠として公開されたスクリーンショット”にレタッチ痕があることなどから,偽情報だと考えられている。もっとも,新作GTAのソースコードについてはまた別の話があって,真偽は不明だが逮捕された容疑者は「そのソースコードの返却を引き換えに上訴しないこと」を求めているとも言われており,Rockstar Games及びTake-Two Interactiveにとってはまだまだ戦々恐々とした状態なのかもしれない。
Rockstar Gamesをハックした容疑者のグループは,これまでMicrosoftの「Bing」や「Cortana」などのソースコードの一部,Samsungの「Galaxy」,NVIDIAの「DLSS」に関するソースコードといった資産を盗んできたことで知られている。盗まれた側の信用にも関わることなのでその後の顛末は明らかにされないことが多いが,自分たちで書いた何十万,何百万行ものソースコードが盗まれたソフトウェアエンジニアたちの苦しみは想像に難くない。
ハッカーによるソースコードやアセットの盗難被害ではないものの,情報自体のリークもたびたび問題になっている。「グランド・セフト・オート」最大のファンフォーラムとして知られる「GTAForums」(外部リンク)では,長期にわたって内部情報をリークし続けているTez2氏というユーザーが,新作の正式発表が10月23日になると書き込んだ。
Tez2氏は,近日中に「GTA Online」で開催される予定のイベントの中で新作が発表されることになると伝えている。
増え続けているソースコードの盗難
ゲームやIT業界では,過去にも何度もこうしたハッキング被害が発生している。例えば,1年前に掲載した「第699回:「タイタンフォール」に何が起きていたのか」(関連記事)でも紹介したことがあるように,「タイタンフォール」は長年にわたって,メーカー側が対策できないほどのハッキング被害にあっていた。ほかにもElectronic Artsは2021年6月の時点で,「FIFA 21」や「The Sims」,「Frostbite」のソースコードや,マッチメイキングやネットワークコードといった,780GB分ものデータがハッキングにより盗難にあっていることは本誌でも報じたことがある(関連記事)。
さらに少しユニークな例であり,ハッカーなどによる被害とは言えないかもしれないが,今月に入って「セインツ ロウ」シリーズの元祖である,2006年にリリースされたオリジナル版のαテストおよびβテストの,日本語版を含めた30GBのソースコードがアップロードされた。現時点では,暫定的ながらも所有者不定として「National Archive」(外部リンク)にてパブリックドメイン入りしており,未完成の古いゲームであるとは言え誰でも合法的にダウンロード可能になっている。
そもそも「ソースコード」とは,プログラミング言語で書かれた,ハードウェアに対して命令を与えるためのデータのことである。インディー作品の中には無料公開されている“オープンソース”を利用して開発されているものも少なくないが,Electronic ArtsやRockstar Gamesのような企業であれば,“リング・フェンス”(Ring-Fence=塀で囲った門外不出なもの)とも呼ばれるほど大切な知的財産となる。
ソースコードは,我々一般の消費者にとってはただの記号や数字の羅列に過ぎないので,リークされたと言っても一般に出回るようなものではない。ただ,ダークウェブでオークションにかけられたものが悪用され,マルウェアが仕込まれた偽ゲームが出回ったり,深刻なデータブリーチや脆弱性を突いて個人情報のハッキングが行われたりする懸念は十分にあり,その企業の信頼失墜につながるものになることは考えられる。
ハッカーグループの動機は,実際に企業に恐喝を試みる金銭目的であったり,自分たちの名声を高めるためだったり,もしくは資本主義への挑戦にかこつけた単なる嫌がらせを目的にした“ハクティビスト”的な活動だったりとさまざまだ。よくその呼称を耳にする「DDoS攻撃」は “ハッキング行為”や“情報のリーク”とは別の問題であるが,鳴り物入りでローンチした「オーバーウォッチ 2」が攻撃されていたのも(関連記事),ゲーマーにとっては迷惑な話でしかない。
2016年にPlayStation Network上で大規模に発生したDDoS攻撃によるサーバー障害は多くのゲーマーが記憶しているところであろうし,2020年にはXbox Game Passを悪用した攻撃も発生するなど,ゲーム企業は日ごろからこうしたハッカーやアタッカー,そしてリーカーたちと戦い続けているのだ。
グランド・セフト・オートの新作について「計画どおりに開発が進んでいる」と言うRockstar Gamesだが,多くの注目を集めるだけの作品であるからこそ,それだけ被害にもあいやすい。前々から噂されているように男女2人の主人公になるのか,10月23日に正式発表されるのか,本当にソースコードの流出によって開発に影響はないのか? それが判明するのもそう遠いことではないはずだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
からの記事と詳細 ( Access Accepted第737回:ゲーム業界が悩まされ続けるハッキングと情報リーク問題 - 4Gamer.net )
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