地球の海の起源に迫る手がかりが結晶中の穴から見つかった
探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料から液体の水が見つかった。結晶中の大きさ数µmの微小な穴には,リュウグウのもとになった母天体にあった太古の水が閉じ込められていた。宇宙の天体で採取した試料から水が見つかったのは初めて。地球の海の起源に迫る手がかりになる。成果は9月23日付のScience誌に掲載された。
「ほんの一滴だが大きな意味がある。水をたくさん含む小惑星が地球に衝突すれば,地球に水を供給できる。海の起源に直接かかわる証拠を発見できた」。東北大学の中村智樹教授は今回の成果の意義をこう説明する。生命の誕生に欠かせない水の起源は詳しくわかっていないが,小惑星からもたらされた説を裏づける結果だ。
これまでにも小惑星に水は見つかっていたが,主に水酸化物などの形で鉱物に取り込まれていたものだった。東北大学などの研究チームは試料の構造を分析し,六角形の硫化鉄の結晶に微小な穴を見つけた。内部の液体をこぼさないように−120℃に凍らせてから切断。質量分析装置で成分を分析した。
検出されたイオンの種類から,内部の水は二酸化炭素が溶け込んだ炭酸水であることがわかった。そのほかにも様々な塩や有機物が検出された。内部の液体を蒸発させた後に再び成分を解析して,鉄と硫黄しか検出されないことも確かめた。
試料の表面を電子顕微鏡で詳しく観察すると,小さく薄い結晶が積み上がったサンゴ礁に似た構造が見つかった。この構造は「水が接している岩石の表面で成長した可能性がある」(中村教授)という。母天体の内部に,かつて水が豊富にあった証拠になると考えている。
六角形をした硫化鉄の結晶には小さな穴があり,内部に液体の水が閉じ込められていた(左)。 試料の表面を観察すると,テーブルサンゴに似た構造が見つかった(右)。(写真:東北大学) |
母天体の成り立ちを知る情報は他にも得られた。
試料には磁鉄鉱の粒子が含まれていた。粒子の内部には,それらが形成した太陽系誕生当時,つまり46億年前の磁場が刻まれている。まるでハードディスクのように当時のデータを現在に残している。磁場を解析すると,内部では磁力線が同心円状に渦を巻いていた。母天体が形成されたときには,磁場をもった原始太陽系円盤ガスに覆われていた可能性が高いことを示す。粒子の周囲に記録された磁場には,液体の水と鉱物の反応が起こったときの母天体の環境が反映されている。
磁場だけではなく,試料の硬さや比熱といった様々な物性も解析した。試料は「包丁で切れるほど」(中村教授)の軟らかさだったという。こうしたデータをもとに,母天体が生まれてからリュウグウが形成されるまでのプロセスを再現し,液体の水ができる仕組みなどを調べた。小惑星から採取した試料の物性をもとにしたシミュレーションは世界で初めてだという。(続く)
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