個室プランを超えたプライベートダイニング
レストランで昔から人気が高いのは個室プランです。最近では目の前で料理人たちの手捌きや動きが見られる迫力あるカウンター席が好評を博していますが、個室の人気ぶりは今も変わりません。その証左に、レストランの飲食予約サイトでは、多くのレストランで個室プランが設けられています。
親族や友人との集まり、女子会やママ会、ビジネスの会食からデートまで個室は非常に便利です。クローズドな空間で、他の客からの目も気になりません。周囲の音も気にならず、落ち着いた空間の中でゆっくり食事をとることができます。
このように個室プランはレストランにおいて特別な役割を果たしていますが、実は今これまでの個室プランを超えたプライベートダイニングが提供されているのです。
それは、帝国ホテル 東京の「ル サロン アンティミテ」(以下「アンティミテ」)。
帝国ホテル 東京料理長である杉本雄氏による贅沢なディナーがプライベート空間で体験できるのです。
東京料理長を務める杉本雄氏とは
杉本氏の経歴を紹介しておきましょう。1999年に帝国ホテルに入社し、本場のフランス料理を追求したいという思いが強く、2004年に退社してフランスに渡ります。
1835年創業の歴史あるパリのホテル、ル・ムーリスにおいて三つ星のメインダイニングでシェフを務めました。そして2017年4月に帝国ホテルへ再入社し、2019年4月から帝国ホテル 東京料理長に就任。海外での経験も豊富で、非常に輝かしい経歴を有しています。
東京料理長は、帝国ホテル 東京にいる約350名の料理人を率いる立場。各レストラン、宴会などすべてのセクションを統括しています。つまり、杉本氏は、日本でも指折りの美食ホテルである帝国ホテル 東京の長に位置するシェフなのです。
親密を意味する「アンティミテ」
「アンティミテ」はフランス語で「Intimité」=「親密」 を意味します。プライベート空間で楽しめる1日1組限定のディナーで、2人で12万円(税込、サ別)という非常に贅沢なプランです。
※コース料理と個室料は含まれている
大きな特長は、海外の一流店でも活躍した杉本氏が自ら演出し、季節の食材を用いた料理とサービスを満喫できること。テーマや要望をこまかく伝えてフレキシブルに対応してもらえることはもちろん、おまかせコースをお願いすることもできます。
ここからは、ある1日のコースを秘密がばれない程度に紹介しましょう。
アミューズ
最初に登場したのが、真っ黒なアミューズ。キャビアは冷製で食べられることが多いですが、あえて温製にして磯の香りを存分に生かしました。鍋からサーブされるプレゼンテーションもワクワクさせられます。
ガンベローニ
海老の瞬間ポワレ、オシェトラキャヴィアとわさび菜のグリーンエッセンスオイル
シチリアから空輸した瞬間冷凍のガンベローニ(大きな海老)を主役にした一品。溶岩石の上で焼き上げているので、音や香りも楽しめます。ワサビナの葉からつくられたピューレ、青のりでできたスポンジ生地と緑が映えます。
ガンベローニの甘味とワサビナのほろ苦さがよいアクセント。キャビアはたっぷり使われていますが、贅沢にも脇役に。赤いパウダーは、食材を余すことなく食べてもらいたいということから、ガンベローニの頭や殻をローストしてつくられたものです。
鴨フォワ・グラ / 蝦夷鮑
海草を練り込んだ塩釜焼き アスペルジュソバージュを添えて
フォアグラとアワビの豪華な組み合わせに、3週間程度と短期間しか食べられないアスペルジュソバージュをふんだんに添えて。フォアグラとアワビはワカメで巻いて塩釜焼きにしているので、ほのかに潮の香りもして、両者の相性も抜群です。黒トリュフに遮光栽培した食用タンポポと、フランス料理のエッセンスがしっかりと感じられます。
フランス産平目
骨付きロースト 亀の手とモリーユ茸のフリカッセと一緒に
骨付きの立派なヒラメをローストしました。モリーユと愛知県産のカメノテという貴重な食材が惜しげなく用いられています。ホワイトアスパラガスはあえて皮をむかず、野性味も感じられる味わいに。
注目するべきはオリジナルの塩です。赤ワイン、根菜、ケッパー、グリーンリーフ、柑橘類、イチゴ、アサツキと7種類の食材を用いてブレンドした塩を、杉本氏が目の前で調合してくれます。
仔鳩
黒トリュフを鋳込んだ淡路島フルーツ玉ねぎのコンフィと姫竹のグリルをあしらって
メインディッシュはフランス料理では定番のコバト。肉の繊細さが感じられる絶妙な火入れで、色合いも非常に美しいです。コバトの胸肉の上にのせられているのが、山形県のヒメタケ。顔を出したばかりの新芽でほのかに土と緑の香りがします。付け合わせは、黒トリュフのスライスがサンドされた糖度の高いフルーツタマネギ。コバトのジュと赤ワインのソースは、コバトの肉と非常に合います。
コバトの他の部位はフルーツタマネギのフリットなどと合わせてメキシカンリゾット風に仕上げ、できる限り食材を無駄にしないという心配りも感じられます。最後にご飯ものが提供されるのは、日本人の感覚としてはホッと安心できるところではないでしょうか。
沖縄県産パッションフルーツ
季節の柑橘のヴァシュラン仕立て ヨーグルトの結晶とサフラン香るエキストラオリーブオイルのソースで
目の前のワゴンで杉本氏がパッションフルーツのソースをつくってくれます。ローズマリー、日向夏とパッションフルーツの実を合わせて火にかけ、ジンとパッションフルーツのリキュールでフランベし、サフランのジュレと合わせて仕上げられました。大人の色香をまとわせたソースであるといえるでしょう。
プレートにはパッションフルーツと柑橘風味のメレンゲが現代アートのように配されており、とても美しいです。そして、ここから先にはいくつかの驚きがあるので、内緒にしておきましょう。
開催された背景
「アンティミテ」では印象深い体験ができますが、どのようにして開催されることになったのでしょうか。
杉本氏は帝国ホテル 東京料理長を務めていますが、杉本氏の料理を食べられる機会はありませんでした。ゲストから杉本氏の料理が食べたいという要望が多かったため、杉本氏がメニュー構成からプレゼンテーションまでを創作する「アンティミテ」が考案されたのです。
2020年4月1日に開始されましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、8月から利用できるようになりました。2021年4月にはリニューアルを施して新生「アンティミテ」が登場。
こだわりについて杉本氏はこのように話します。
「個室に一歩入ったら『レ セゾン』とは全く違う空間、別世界を演出することを大事にしている。最高の食材を惜しげなく用いた料理を提供しているが、まるで友人の自宅に招かれたかのように気楽に過ごしていただけたら嬉しい」
これまで「アンティミテ」を利用したゲストのリクエストに対して、杉本氏がフランスのムーリスでシェフをしている時の料理を再現したり、ゲストの思い出の年代の古酒とのマリアージュを提案したり、ヴィーガン用コースをつくりだしたりと、様々な形でゲストをもてなしてきました。
反応は非常に好評で、中には5回も利用したゲストがいるということ。昨年8月から本格的に開始されたことを鑑みれば、とても頻繁に利用していることになります。
多くの支持を集めている「アンティミテ」について、改めて特筆するべき点を挙げていきましょう。
杉本氏の料理を味わえること
杉本氏が演出する空間で一品一品のストーリーと共に料理を味わえることが、何よりの魅力であり、最高の価値です。
帝国ホテル 第14代 東京料理長を務める杉本氏は1980年生まれと、極めて若い年齢で料理長に就任しています。フランスにある名門ホテルの三つ星レストランでシェフを務めるなど実績は申し分なく、輝かしいばかりの経歴を誇ります。
ただ、これまでは杉本氏のクリエーションを味わう機会がなかなかありませんでした。それだけに「アンティミテ」は本場フランスでも大いに実力を認められた杉本氏の料理を堪能できる貴重な機会なのです。
完全なオートクチュール
本物のオートクチュールであることも見逃せません。昨今のモダンガストロノミーでは、全てをシェフに委ねるおまかせコースが流行しています。
「アンティミテ」もコース内容が決まっていないという意味ではおまかせコースと同じですが、シェフ主導のおまかせコースとは異なり、ゲストの要望に寄り添ったおまかせコースとなっているのです。
ゲストからの様々な要望を受け入れ、杉本氏が唯一無二のコースへと仕立て上げます。
完全なオートクチュールであるからこそ、10日前までの予約が必要。食材の調達から料理の構成、プレゼンテーションなど、ゲストの要望に応えるための期間が設けられているのです。
ソムリエマネージャーを務める李哲三氏は、料理に合わせるワインの選び方についても、通常とは異なるといいます。
「ゲストによって料理が全く異なるので、ワインを決めすぎないようにしている。杉本東京料理長とはいつも以上にコミュニケーションをとり、最高のマリアージュをご提案している」
オリジナルブレンド塩を体験できる
帝国ホテル 東京には「インペリアルバイキング サール」というブッフェレストランがあります。1958年に開店した日本初のブッフェレストラン「インペリアルバイキング」の継承店であり、2004年にリニューアルオープンしました。
内装や什器、料理やプレゼンテーションなどがさらに進化。店名に新しく付与されたサールはラテン語で塩を意味しており、人類最古の調味料である塩に原点を置きました。
2021年5月からは全館のレストラン・ラウンジで、塩をテーマとしたプロモーションも行われています。「インペリアルラウンジ アクア」では塩が主役となったアフタヌーンティーを、「オールドインペリアルバー」や「ランデブーラウンジ」では塩の妙味を味わうカクテルが提供されているのです。
「アンティミテ」でも塩がとても大切にされており、先に紹介したように、魚料理ではオリジナル塩が提供され、ヒラメの味わいを深めました。
取材時には7つの食材を用いたオリジナル塩が提供されていましたが、実は全てがサステナブルな視点からつくられた「サステナブル塩」。飲み頃をすぎた赤ワインから、根菜類の皮から、柑橘類の皮から、イチゴのヘタから、それ以外も各食材のフードロスからと、全てが食品ロス削減を強く意識した塩なのです。
料理において、いくら塩が重要な調味料であるとはいえ、食材を余すところなく使うという意識から、フードロス食材を生かした塩が用いられているレストランなど聞いたことがありません。
音や香りも堪能できる
音や香りを存分に楽しめるのも魅力。フランス料理は香りを楽しむ料理といわれますが、モダンフレンチでは、よくも悪くも香りの重要性が低下しているように感じます。
しかし、「アンティミテ」では香りはもちろんのこと、音も大切にされており、音と香りによるプレゼンテーションが楽しめるのです。
最初のアミューズから、いきなり杉本氏がテーブルまで訪れて目の前でサーブ。個室内はニョッキの香りと石で焼ける音で覆われ、食欲がかきたてられました。「ガンベローニ」では溶岩石にのせられたガンベローニが、「フランス産平目」では両手鍋に骨付きのヒラメが、最後は大きな鉄鍋でメキシカンリゾットが運ばれ、音と香りを堪能させてくれたのです。
杉本氏がわざわざテーブルまで赴き、音や香りまでも存分に味わわせてくれたことは、絶対に忘れられない食体験となるでしょう。
1日1組限定のプライベートダイニングであること
1日1組限定で、杉本氏が料理をつくり、サービスを行い、さらには個室ということで、非日常の特別感があります。
個室なので、コロナ禍でも安心して過ごすことができます。料金に個室料金も含まれているのも良心的。
コロナ禍でも安心してガストロノミーを堪能できるのは、とても嬉しいことではないでしょうか。
新調された特別なテーブルウェア
料理や空間が特別であれば、テーブルウェアも特別です。
イタリア製レザーマット、カトラリーケース、サービスするためのワゴンは全て「アンティミテ」のために新調された特注品。
あえてテーブルに無造作に置かれたレザーマットは黒、橙色、朱色、グレーの中からゲストが選ぶことができます。カトラリーケースはレザーマットにはないベージュ色。どちらともイタリア製で、組み合わせた時の色彩のバランスがよいです。
ワゴンは通常よりも高い90センチになっており、調理工程やサービスがより美しく映えます。
フォークやスプーンは銀器の王道であるクリストフル、ナイフはフランス名門ラギヨール。ワイングラスはシャンパーニュ地方のレーマンやオーストリアのリーデルなど、特筆するべきものばかり。
他では扱っていないテーブルウェアまでも体験できるのです。
コロナ禍でも価値ある食体験
インタビューの最後に、杉本氏は少し考えた後でこう結びます。
「国際的ベストホテルを目指すホテルとして、ゲストにラグジュアリーなものを提供して喜んでいただくことは当然のこと。さらに、SDGs(エスディージーズ)などで社会への貢献も同時に考えていきたい。おいしいだけではなく、顔の見える料理長として、驚きや感動をご提供してきたい」
1日1組の特別ディナーを共有できることからゲスト同士がより親密になれることはもちろん、一流の料理人である杉本氏との距離を縮めることができるのも大きな魅力です。
平時だけではなくコロナ禍であってさえも、至極の価値を提供できる「アンティミテ」は、日本を代表する帝国ホテル 東京らしい唯一無二の食体験であると断言して間違いありません。
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