北谷憲章さん(38)はアフガニスタン・カブールの日本大使公邸で2019年10月までの3年間、公邸料理人を務めた。公邸の敷地から一歩も出られない厳しい環境下で、食で日本外交を支えてきた。いま思うことは二つ。食がいかに人を和ませ、喜ばせ、互いに結び付けるかということと、一緒に働いたアフガン人スタッフの安否だ。
それまで青森県八戸市の和食の料理店で働いていた北谷さんに、「カブールの日本大使公邸の料理人にならないか」との話が父親の知り合いを通じて舞い込んだのは16年秋。近くカブールに赴任する日本大使の鈴鹿光次氏と会って話をし、お受けしますと即答した。
「面白そうだったのと、危険地域でも日本政府の最大のサポートがあるはずだと考えました。根は楽観主義ですから」
カブールに着任したのは16年11月。日本大使館と大使公邸は「グリーンゾーン」と呼ばれる厳戒区域の、高い塀に囲まれた約100平方メートルの敷地内にあり、館員宿舎と館員用食堂も併設されていた。塀の外にはアフガン警備兵、敷地内は英民間警備会社の武装した英人傭兵(ようへい)が何人も24時間体制で警戒していた。
館員と同様、北谷さんも敷地から出ることは原則禁止だった。3年もの間、休暇で日本に一時帰国した際に公邸と空港を車で往復する以外、出歩くことはなかった。食材はアフガン人スタッフにメモを渡して買ってきてもらったが、最初のころは何があるのか知るため、カメラで市場や店の商品を片っ端から撮ってきてもらった。
現地で調達できる食材は野菜が中心だが、乾燥した土地柄、葉物野菜が少なく根菜類が主体だ。ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、ブロッコリー、カリフラワー……。肉や魚介類はそれまで館員がドバイに出張した際、地元の日本食料品店でまとめて調達していた。
しかし品質にもう一つ納得できなかった北谷さんは、日本の料理人のネットワークを使い、日本から取り寄せるようにした。注文した冷凍の和牛や魚介類が、ドライアイスの入った発泡スチロールで成田空港に届けられる。それを日本への出張者や休暇を終えた館員がピックアップする。
北谷さんの要望でマイナス60度まで冷凍できる冷凍庫も厨房に入った。それまでマイナス20度までの冷凍庫はあったが、食品の酸化が進む。マイナス60度になると酸化は止まり、長期間保存がきく。「公邸では冷凍ものを使う割合が高いので鈴鹿大使にお願いました」
「料理人帯同制度」の外交的意味
任地で人脈を作り、情報をとり、日本をPRし、親日・知日派のネットワークを広げる日本大使公邸の招宴は、日本外交を底辺で支える重要な外交活動である。…
からの記事と詳細 ( カブールの公邸料理人 日本外交を支え、「食の大切さ」を再確認した3年 | | 西川恵 - 毎日新聞 )
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