料理家・冷水希三子(ひやみず・きみこ)さんがリクエストに応えて料理を作ってくださるという夢の連載。今回は自宅でも本格的な味を楽しめるフォー。自家製スープも手軽に作れますよ。
―― 冷水先生、こんにちは。急に暑くなりましたが、体調崩していませんか?
冷水 はい、おかげさまで。
―― あ〜、今年の夏休みは、どこか旅行に行きたいですねぇ……。
冷水 本当に。異国の空気を思い切り吸い込みたいです。
―― きっとみなさんもそんな気持ちを抱えていると思いますので、今日は海外旅行気分を味わえるお料理なんてどうかなと思っています。
冷水 いいですね! 旅シリーズ。
―― ちょっとハードルが高いかなと思って避けてきたのですが、思い切ってベトナムの麺料理、フォーはどうでしょうか? あんまり難しいと挫折してしまいそうですが……。
冷水 少しだけ時間がかかりますが、難しくはないですよ。
―― そうなんですか! ぜひチャレンジしたいです。
冷水 じゃあ今日はフォーの命ともいえる鶏スープも自家製で作ってみましょう。これさえマスターすれば、フォーが身近な料理になりますから。
―― スープ作り……。ドキドキしますが、頑張ります!
冷水 じゃあまずは出汁(だし)のもととなる鶏のぶつ切り肉の下準備から。
―― あのう……。ぶつ切り肉が手に入らない場合は、どうしたらいいですか?
冷水 できたら骨つきの鶏もも肉、もしなければ手羽元でも大丈夫です。あ、あと前日から干し貝柱を水で戻しておくことをお忘れなく。これも大切な出汁の源です。
―― わかりました!
冷水 まずはぶつ切り肉を霜降りして、余計な脂や汚れ、アクを取ります。すっきりとした風味のスープを作るために大切なポイントですので、ここは面倒くさがらずに頑張りましょう。といっても、沸騰した湯にお肉を入れて、2分ほど茹(ゆ)でるだけです。
―― 簡単ですね! 澄んだスープのためなら、なんてことないです!
冷水 次に、大きなお鍋にぶつ切り肉、干し貝柱、水、4等分くらいにした大根、生姜(ショウガ)スライス、芯を取ったにんにく、八角、シナモンを入れて、火にかけます。
―― ん? 大根!?
冷水 フォーのスープって、ちょっと甘みがあるでしょう? あれは砂糖が入っているからなのですが、砂糖の甘さは少し強いので、今日は大根では自然な甘味をプラスしたいと思います。
―― それは健康面でもいいですね。賛成!
冷水 沸騰したらアクが出てきますので丁寧に取り除きます。その後は弱火にして1時間〜1時間半ほど静かに煮込みます。ここで沸騰させてしまうとスープが白濁してしまうので、火加減に注意してくださいね。
―― 白濁するとラーメンのスープになっちゃいますもんね(笑)。
冷水 それはそれでおいしいですけどね、今日は澄んだスープなので。
―― スープの表面がゆらゆら揺れるくらいの弱火ですね。ところで、スープに使ったぶつ切り肉と大根は、捨てちゃうんですか?
冷水 どちらも味が抜けてしまっているのですが、調味料などで味付けすれば十分食べられます。お肉は骨から外してほぐし、サラダの具にしてもいいですし、少し塩をしてからオイル漬けにすると、ツナみたいな感じになっておいしいですよ。
―― それはいいアイデアですね! サンドイッチの具にしてもよさそう。
冷水 大根はおでんのような感じで食べてもいいですしね。
―― 無駄なくいただきたいですね。
冷水 さて、そろそろスープがいい感じになってきましたので、次の工程です。今度はフォーの具としてトッピングする鶏肉の準備です。
―― 具にするのは胸肉ですね。茹で鶏にするんですか?
冷水 はい。胸肉は火を入れるとパサパサになりがちなので、ちょっとコツが必要です。スープを作っているお鍋に胸肉を入れて、弱火の状態で5分。その後火を消して、20分ほどそのまま置いておきます。余熱でゆっくりを火を入れることで、水分が逃げずにジューシーに仕上がるんです。
―― これは普段の茹で鶏にも使えるテクですね!
冷水 スープにも鶏肉の旨味が入りますし、鶏肉にもスープの味がほんのりつきますからね。
―― ウィン―ウィンの関係だ!
冷水 たしかに(笑)。では待つ間にフォーの準備をしましょう。乾麺のフォーは、そのまま熱湯に入れるとベタベタとくっついてしまうので、15分ほどぬるま湯につけてやわらかくしておきます。
―― 透き通っていた麺が、だんだん白くなってきました。
冷水 はい、15分ほどして真っ白くなったら茹でてOKのサインです。ちょうど茹で鶏も仕上がったみたいなので、これはスライスしておきましょうね。
―― おお……、めちゃくちゃしっとり仕上がってますね! これは感動……。
冷水 そうそう、麺を茹でる前にスープをこして温めておきましょう。大体ひとり分のスープは400mlほどです。ナンプラーを入れて味を調整してください。
―― 透き通った、本当にきれいなスープですねぇ……。
冷水 あとは麺を茹でたら完成です。器に麺を盛ってスープを注ぎ、茹で鶏と、あとはパクチーやミントなど、お好みのハーブをトッピングして完成です。
―― 私はライムが大好きなので、ライムもたっぷり絞っていただきます!
冷水 お好みで“追いナンプラー”もどうぞ。
―― はぁぁ……、これは何とも優しいスープですね……。鶏の旨味とスパイスの風味のバランスが絶妙で、本当にベトナムにいるみたいな気分です。一滴残らず飲み干したくなります。
冷水 それはよかったです。
―― 砂糖を入れていないのにちゃんと甘さがあって、大根の偉大さを感じます。あと、ミントが爽やかで、これは陰の立役者ですね!
冷水 フォーはお好みで色々なハーブをのせて食べる料理なので、そこもぜひ楽しんでいただきたいです。
フォー
材料(2、3人分)
- 干し貝柱は酒と水(a)に一晩浸し、戻しておく。
- 鶏肉ぶつ切りを沸騰した湯に2分ほど入れ、霜降りする。
- 鍋に1.と、2.の鶏肉、4等分くらいにした大根、Aの材料(生姜はスライスに、にんにくは芯をとる)をすべて入れ、中火にかける。沸いたらアクをとり、弱火にして1時間~1時間半ほど静かに煮る(沸騰しない程度の火加減で)。最後に鶏胸肉を加え、5分ほどしたら火を消して20分ほどそのままにする。
- 3.をこして、スープをとる。鶏胸肉はスライスしておく(出汁用に使った鶏ぶつ切り肉は、ほぐしてサラダなどに使ってもよい)。
- 4.のスープ1人前400mlを鍋に入れて温め、ナンプラーで味を調える。
- 茹でたフォーを器に盛り、5.のスープを注ぐ。4.の鶏胸肉のスライスと、パクチーなど好みのトッピングをして食べる。
からの記事と詳細 ( おうちでベトナム気分。透き通る鶏スープのフォー - 朝日新聞デジタル )
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