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Friday, April 10, 2020

“読む”野菜スープさながらに 女性農家が主人公の短篇8作(Book Bang) - Yahoo!ニュース

 農家ってそんなに特別ですか。

 世の中にはさまざまな職業があるが、この国においてはなぜか、人間の生活にいちばん近いはずの農業が最も縁遠いものになっている。瀧羽麻子『女神のサラダ』は、その農業という道を選んだ女性たちを主人公にした連作短篇集である。

 各篇には、主人公たちが活動する場所が副題として付されている。たとえば「アスパラガスの花束」は、「長崎県諫早市・いさはや農業大学校」が舞台だ。将来について考えた葉月は、自分は人間よりも野菜に囲まれて働くほうが向いているという結論に達した。農業大学校に入ったのもごく当然のなりゆきである。だが、同級生には聞かれてしまう。

「かしこか学校出よらして、家も農家やなかとに、なんでわざわざ?」

 農業は「わざわざ」やる仕事なのだろうか。この職業と真剣に取り組むつもりの葉月は、同級生たちと反りが合わない。寮で同室の梨奈ともノートの貸し借りで揉めてしまうのだ。葉月の頑なさは、農家になるという意気込みゆえのもので、肩に入った力はなかなか抜けない。

 農家の男性と結婚した美優が自分を認めてくれない義父との関係に悩む「レモンの嫁入り」、SEで疲弊して農場勤務に転じたが、そのことを実家の母親に告げることができない沙帆が語り手の「夜明けのレタス」は、この職業との馴染みが薄かったために主人公が葛藤する物語だ。「月夜のチーズ」の佐智子は、離婚して実家の酪農家に戻ったが、子供を僻村で育てていいものかと思い惑う。

 八つの人生模様が、農業の現在を映し出す。どんな仕事にも独自の苦労があり、喜びがあるはずだが、本書では作物の収穫という形でそれが表現されているのがいい。「オリーブの木の下で」や「トマトの約束」では、新鮮な作物を目にし、味わうことで、主人公が心の平穏を手に入れるのである。野菜スープのように、気持ちを温めてくれる小説だ。

[レビュアー]杉江松恋(書評家)
1968年東京都生まれ。ミステリーなどの書評を中心に、映画のノベライズ、翻訳ミステリー大賞シンジケートの管理人など、精力的に活動している。著書に海外古典ミステリーの新しい読み方を記した書評エッセイ『路地裏の迷宮踏査』『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』など。2016年には落語協会真打にインタビューした『桃月庵白酒と落語十三夜』を上梓。近刊にエッセイ『ある日うっかりPTA』がある。

新潮社 週刊新潮 2020年4月9日号 掲載

新潮社

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