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Monday, April 6, 2020

【食す幸せ】人は自然と離れては生きていけない【再掲】|京都「草喰なかひがし」店主の『おいしいとはどういうことか』(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース

中東久雄

おいしいものを食べること、「おいしい」と言ってたべること、自然の恵みを味わいながら作ること。台所で五感を集中させると、かかえた不安やストレスのあれこれも開放されそう。丁寧な暮らしの効用のひとつかもしれません。*   *   *

理想の食事は、舌より、まず体が喜ぶ――。

喉が渇いたときに飲む水は心底おいしいけれど、渇きがおさまった後に同じ水を飲んでも、もうおいしいとは感じない。体が必要としていないからだ。すなわち「おいしい」とは本来、体という自然によりそい喜ばせてあげたときに生まれる感覚のこと。

しかし、ただおいしいだけでなく、この「体が喜ぶ料理」を作るのが案外難しいと著者は言う。
どうしたらそんな料理が作れるのか。そもそも料理とは何か――?

京都で最も予約がとれない日本料理店「草喰なかひがし」店主・中東久雄さんが、野山を馳せ巡りながら得た“食”にまつわる究極の哲学。*   *   *

「ほんまの料理人」とは、どんな料理人を指すのか

料理が人間の文化の始まりだという説があるそうです。

自然の木の実をもいで食べたり、捕まえた魚や獣の肉をそのまま食べるのがすべてだった頃の私たちの遠い祖先も、おそらくはそういう生の食物を「おいしい」と感じて食べていたのだと思います。けれどもしもそれだけで充分に足りていたら、きっと料理というものは発達しなかったでしょう。

おそらくは、そういう「おいしい」ものだけでは生きのびるのに足りないことがあったんでしょう。お腹が空けばなんでもおいしそうに見えるといいますが、たぶん彼らは食べても消化できないものはもちろん、食べたら体に悪い毒も、時には食べたはずです。お腹を壊したり、下手したら死んでしまったりした無数の祖先がたくさんいて、人間は「料理」という技術を獲得したのだと思います。 

長い歳月の間に、たまたま火で焼けたり、水に晒さらされたりして、食べられないものが食べられるようになることを知り、ほなら焼いてみよかとか、晒してみよかと、誰か頭のいい祖先が気づいて、だんだんいろんなものを料理して食べるようになった、と。

これはあくまでも素人の想像ではありますけれど。

ただ、そう想像するのは、それが私自身の経験に基づいた実感だからです。

私は京都の北の山里で生まれ育ちました。

そしてその山里で料理を憶え、料理人になりました。

師匠はいません。いるとすれば私の母親です。

母親が料理するのを手伝いながら、いつしか自分も料理するようになっていました。

だから私の料理の基礎は、母親の料理です。

そして今思えば、私の母の料理の根っ子にあったのは、そういう遠い昔の祖先からずっと受け継がれてきた「食べられない」ものを「食べられる」ようにする技術としての「料理」でした。

辺鄙な山里のことですから、食材のほとんどは自分たちの身の周りで収穫できる自然の恵みでした。丸々と太った大根だけ選んで料理するなんて贅沢は許されません。

その時期その季節に得られるものを、炊いたり焼いたり揚げたり、時には長い時間と手間をかけて渋やアクを抜いたりして、なんとか家族においしく食べさせるために工夫することが、母の「料理」でした。

あのご老人が言った「ほんまの料理人」というのは、料理に対するその姿勢をいうのだと思います。

その意味で、私の母は紛れもなく「ほんまの料理人」でした。

これは決して身びいきでいっているのではなく、料理というのは本来はそういうものであって、遠い昔から今にいたるまで、家族のために料理を作ってきた人たちは、そういう意味で「ほんまの料理人」でした。

私はいつの間にかそのことを忘れていて、それをあのご老人に教えられたのです。

なぜ忘れていたかといえば、それは先ほどもお話ししたように、「ええ食材」を求めるあまり、かえって食材をよく見なくなっていたからでした。

太った大根を探すことばかりにかまけて、割れた大根などには見向きもしなくなっていた。子どもの頃にそんなことをしようものなら……、私の母は穏やかな人ですから?られはしなかったでしょうが、優しくたしなめられたに決まっています。

とまあそういうわけで、私もようやく目が覚めまして、それからは毎日畑に通うようになりました。今もその習慣は続いています。

あのご老人に言われた通り、いい野菜だけではなく、間引かれた野菜から出来損ないの野菜、薹の立った野菜にいたるまで、畑のすべてを見て回るのが私の日課です。

いうまでもありませんが、普通なら捨てられてしまうような野菜も、料理の仕方によっては食べられるのです。いや、ただ食べられるというだけでなく、そういう野菜にはそういう野菜にしかない味や香りがある。料理のしようによっては、むしろびっくりするほどおいしくなったりもする。普通はあまり食べないそういう野菜は、新しい料理のアイデアを生み出す宝庫です。

畑になったものをよう見て、これはどうやったらおいしく食べられるやろと、そこでいろいろ考えて料理する。それがほんまの料理人やと思うのです。

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April 06, 2020 at 02:00PM
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