バーの主人がひっそり味わってきた酒呑み放浪記
コロナ禍の影響で居酒屋やバーなどアルコールを伴う飲食店は大きな打撃を受けている。本書『バーの主人がひっそり味わってきた酒呑み放浪記』(秀和システム)は、そんなことはおくびにも出さず、ただひたすら食べて酒を呑む話が出て来る本だ。
著者はハイボールブームの火付け役
「放浪記」と銘打っているが、著者の間口一就さんは、東京・銀座のバー「ロックフィッシュ」店主。昨今のハイボールブームの火付け役として知られる。あらたなつまみを生み出すため国内外の食べ歩きを欠かさない。著書に『バーの主人がこっそり教える味なつまみ』(柴田書店)、『缶つまデラックス』(世界文化社)などがある。
とにかく、間口さんが美味いと思った店や料理、酒の話が次から次へと登場する。いったいいつ店をやっているのか心配になるほどだ。いちおう構成は以下の通りだが、どこから読んでも楽しめる。
第1章 嬉しいレシピつきの一品 第2章 東京の街角で見つけた美味しい味 第3章 日本全国の「美味い」を集めました 第4章 優しい!美味い! 韓国の味+α 第5章 思い出の味は、今も口の中で
青森への偏愛
愛媛県生まれで、大阪の老舗バーで修業した後、北浜で最初の店をオープン。2002年に東京・銀座に進出した間口さんだが、この本にはやたらと青森の話が出て来る。
青森名物の「いがめんち」は刻んだイカのほかに玉ネギに人参などを加えて揚げた惣菜だ。弘前の居酒屋「土紋」さんのイカ100%の「いがめんち」を絶賛している。また、青森駅近くの「はるえさん」という惣菜屋さんのおにぎり、十和田湖周辺で採れる白いゴボウ、津軽地方で採れる枝豆の在来種「毛豆」、りんごジュースと、第1章の13品のうち5品が青森産だ。
第3章でも青森の話が続く。昨年11月には、とうとう津軽鉄道のストーブ列車の中でハイボールを呑むという企画列車まで走らせる。お客は80人。ハイボール200杯が空になった。その弁当も地元婦人部の協力を得て作った。津軽の食材を使ったお品書きが美味そうだ。一部を紹介しよう。
・イカメンチカツの刻みオリーブ入り ・ベビーホタテとしそ大根の炒め ・ニシンの切込みが入ったチヂミ ・黒にんにくとマーマレードのクラッカーサンド ・青森の郷土料理「すしこ」のサンドウィッチ
仕事で青森に行って以来、あの店この店と開拓し、知り合いも増えたようだ。月に1、2回は青森に行っているという。青森に行った帰りには気持ちが落ち込む。そこで、上野で降りると、みちのく料理「北畔」に立ち寄り、帰ってきたばかりの青森の話に花を咲かせるというから、よほど青森が気に入ったのだろう。
もちろん新大久保の韓国料理屋で二日酔い醒ましに呑む干しタラのスープ、羽田空港国際線出発ロビーにある24時間営業の寿司屋、新橋駅前の「とんかつ 明石」、神保町の中華屋、京都の北京料理「東華菜館」など東京や京都、福岡など全国各地、また韓国・ソウルの店も登場する。
4泊5日で西日本はしごの旅
「本気の修行」という一文に、間口さんの食にかける情熱がうかがえる。4泊5日で京都、大阪、博多、松山、神戸、京都の店をはしごする。本書では詳しくどの店で何を食べて呑んだのか書いているが、あまりに多すぎて引用する気にもならない。間口さんは、こう書いている。
「今思えば、かなり恥ずかしい行動ではあるけれど、行かなければそこの味に出会えません。ただ食べて呑むだけなら、いくらでも料理もお店もありますが、色んな方を通して知り合った味、出会いと出会いの先に教えていただいたお店です。繋がっていく味に、飲食店で必要な要素がたくさん含まれています」
第1章には簡単に作れる料理がレシピ付きで載っている。あの「いがめんち」もいかの煮付けの缶詰で代用している。
BOOKウォッチでは、『バーテンダーの流儀』(集英社新書)、『バー堂島』(ハルキ文庫)、『シェアダイン人気No.1 およねさんの昔ながらの作りおき』(宝島社)、『家飲みかんたんドリンク150』(主婦の友社)などを紹介済みだ。
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September 05, 2020 at 06:23AM
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