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Tuesday, May 25, 2021

2度ロックダウン経験、イタリア『TOKUYOSHI』徳吉洋二さんが考える「料理の本質」 - Foodist Media

徳吉洋二さん(写真提供:徳吉洋二さん、以下同)

ミラノ在住のシェフ、徳吉洋二さんのレストラン『TOKUYOSHI』のあるイタリア・ロンバルディア州が新型コロナウイルスの感染拡大でロックダウンに入ったのは2020年3月8日。街から人影が消え、飲食店は休業に追い込まれた。開業して5年、大規模改装を終えたばかりだった『TOKUYOSHI』も例外ではなかった。

店は3か月後の5月に再オープンできたものの、それまでと同じように営業することはできなかった。料理を根本から変え、店の業態も変更。その年のミシュランでは維持していた一つ星を失うこととなった。

しかし、徳吉さんの表情は明るい。コロナ期間中に、料理に対する考え方そのものが大きく変わり、今は料理と真に向き合えている実感があるという。

それまで「星を取ることがすべてだと思っていた」という徳吉さん。コロナ期間中にどう行動を変え、どのように考え方が変わっていったのか、また、徳吉さんにとってファインダイニングとは何かを、オンラインで聞いた。

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「ロックダウンになった2020年3月8日から自宅待機していましたが、従来通りの営業はもう無理だと。諦めは早かったですね。3月末には次の道を模索し始めました。それまでの『TOKUYOSHI』は135ユーロのおまかせコースでやってきました。

しかし、自宅待機の間に考えたんです。外出制限が解除になったらどうするか。解除されたらみんな何がしたいだろうか? きっと外に出て食事したいだろう、そして、そのときに選ばれるのは135ユーロの店ではないなと思いました」

『TOKUYOSHI』店内

ミラノではこれまで、2回のロックダウンが設定された。最初のロックダウンは2020年3月8日から5月17日まで、2回目のロックダウンは2020年10月28日から2021年4月25日まで続いた(5月15日現在、ロンバルディア州の飲食店は屋外での着席に限り飲食サービス活動が許可されている)。

最初のロックダウン中の2020年4月に、徳吉さんは地元の医療従事者のために弁当を作って届ける活動を始めた。「本気で感染症と闘っている医療従事者に、自分も本気で支援したかった」という止むに止まれぬ思いからの行動だったという。弁当は好評で、『TOKUYOSHI』では、その後一般のゲスト向けにもデリバリー事業を開始した。翌月の5月にはロックダウンはいったん解除、飲食店の通常営業が可能になった。

「5月に通常営業できるようになりましたが、ゲストの財布のひもは固かった。これまでうちに来てくれていたような富裕層は、ミラノから脱出していたんです。ゲストの年齢層は若くなり、客単価は下がりました。32席で、ひとり60ユーロくらいになりました。

そして、ほかの店も通常営業できるようになったことで、それまで好評だったデリバリーの注文が入らなくなりました。そうすると、なんとしても店にゲストを入れなきゃならない。メニューをどんどん変えていきました。これまでのモダンなイタリア料理から、イタリア人が喜ぶ、美味しいおつまみのような料理へ。懐石料理ではなく、かつ丼や焼き鳥のように日本人がいつも食べているようなもの。それをイタリアの食材で作って提供しました。それでも、客単価が下がった赤字を埋めるのには足りませんでした」

そして、医療従事者の人たちに弁当を届ける活動から、弁当に自然派ワインをつけて販売するという「BENTŌTECA(ベントウテカ)」のアイデアが生まれた。

イタリアの食材で、日本料理を作る

『BENTŌTECA MILANO(ベントウテカ ミラノ)』は、『TOKUYOSHI』が業態変更した、お弁当やラーメンキットなどを専門に販売する店だ。シェフの徳吉さんをはじめ『TOKUYOSHI』のスタッフが料理を考案、調理も『TOKUYOSHI』の店内で行う。鯖カツ弁当や焼き鳥弁当など、日本でおなじみの料理をイタリア食材でアレンジし、ランチボックスに詰めた。色鮮やかなイタリア料理と日本料理のハイブリッド。そのスタイルは、徳吉さんがこれまで作ってきた料理の延長線上にあった。

「どんなメニューにするかを考えたとき、イタリア人にとって興味があってもこれまであまり食べたことがなさそうなものにしました。温めて美味しいものを6~8種類、あとはラーメンキットなど、家で簡単に作れるもの。

これまでのイタリアにある日本料理店は、日本をそのままイタリアにもってこようとしていたと思うんです。たとえば酢の物、キンピラゴボウ、刺し身、そば。でも僕は本当にそれがいいのかとずっと思ってきました。キンピラゴボウをイタリアにそのまま持ってきて本当に美味しいだろうか? それよりはカツサンドや焼き鳥丼など、ポピュラーで日本中どこでも食べられているものの方が海外ではうけるのではないかと思いました」

『BENTŌTECA MILANO』で販売しているラーメン

徳吉さんは『TOKUYOSHI』をオープンしたときから、自身の料理コンセプトに「コンタミナータ」という考え方を置いてきた。コンタミナータとは「混成」という意味で、日本人の徳吉さんがイタリアでイタリア人のためにイタリア料理を作ることの意味を考えて生まれた、料理に対する哲学だった。日本の食文化のバックボーンを持つ人間が味は100%イタリア料理にするという「コンタミナータ」が、コロナを境に大きく変わったという。

「日本料理を作るようになりましたが、イタリアの食材を使うことを心がけました。たとえばカツサンドなら、豚肉の代わりにイタリアの良質の牛タンを使います。また、たとえばイカの塩辛。これはイタリア人には生臭いものでしかないんですが、牛の骨髄と合わせると反応が変わるんです。日本の料理を、イタリアの美味しい食材、イタリア人が馴染みのある食材を使って作る。ほかにもそば粉のポレンタなど、日本料理だけどイタリアっぽいよねという料理を目指しました。

イタリア人がよく知るイタリア食材の良さを、日本料理にすれば新たな形で伝えることができる。そういうところに自分たちのできることがあるんじゃないか。そしてこういうものこそが自分のやりたかった『コンタミナータ(混成)』じゃないのかと思いましたね」

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