料理は、味もさることながら盛り付けも重要だ。たとえば、レシピ系サイトを見ながら工程通りに作っても、仕上げ段階で綺麗に盛り付けできないと「なんか違う」感が拭えないことがよくあるはずだ。
一方で、料理家や自炊系インスタグラマーなどを観察すると、食材の配置や色味に対し非常に気を配っていることがよくわかる。いずれにせよ盛り付けの完成度によって、食べる側のテンションが大きく左右されることは間違いないだろう。
では、盛り付けのセンスはどのように身につければいいのか?
どうせ人に料理を出すなら、「美味しそう!」と思われたいもの。ましてや今はコロナ禍で外食する機会が減っており、自炊した料理写真をSNSにアップする機会も多くなっている。盛り付けテクニックで差を付けたいと考える人は自分以外にも多いはずだ。
そんなことを知り合いのメシ通の編集者にボヤいていると、「盛り付け? だったら適任の方がいますよ。この際、がっつり教わったらいかがですかね」と緊急提言された。その名は樋口直哉氏。作家であると同時に料理人としても活躍するフレンチのエキスパートである。
「素人の盛り付けとプロによる華麗な盛り付け。同じ材料でどれだけ差が出るか興味があるので、盛り付け対決でもやってみますか」と編集者は不敵に笑うのだった。
そして話はとんとん拍子に進み、「盛り付け対決」のルールは次のように決められた。
要するに「リモートとはいえ、同じ条件下で戦おう」という話なのだが、取材日にコンビニで食材を買っているときは「さすがにこれは企画倒れでは?」という不安が頭をよぎった。
仮に樋口さんの盛り付けテクニックがすごかったとしても、所詮は同じコンビニの同じ惣菜であるからだ。その多くはレンジでチンするだけで完成するため、そこで差が出るとは到底思えない。逆にいうと、差が出ないからこそ全国にチェーン展開するコンビニなのだという話になってくる。
うっかり自分の料理のほうが写真映えして、樋口さんに赤っ恥をかかせることになったら申し訳ないな……。そんなことを考えているうちに決戦のゴングは鳴らされたのだった。
【第1R・肉じゃが編】
第1Rは肉じゃがでの和食対決となった。そして、自己紹介が遅れました。先攻はわたくし、ライターの小野田から。
まずは2分20秒、500Wの電子レンジで肉じゃがを表示通りに温めていく。これを調理と呼んでいいのか分からないが、条件は相手も同じはずだ。
皿は100円ショップで買った小さめの白皿をセレクトした。大きい器に寂しく盛り付けるより、小さい皿にこんもり盛ったほうがゴージャスに見えるからだ。
そうこうしているうちに電子レンジが肉じゃがの完成を告げてくる。封を開けて皿に入れたものの、グチャッと潰れている点が好ましくない。
肉じゃがなのだから、まずはじゃがいもを目立たせることに専念する。菜箸を使いながら食材の配置を調整していると、「意外と丁寧な仕事ぶりですね」とリモート画面から樋口さんの感心する声が聞こえてきた。
小野田衛:肉じゃがで大事なのは色味だと思うんですよね。この場合、ニンジンの赤がポイントになってくるので目立たせるようにします。となると、おそらくニンジンは固めたほうが目に付くんじゃないかな。
樋口直哉さん(以下、敬称略):なるほど。いろいろ考えているようですね。
小野田:そして最後にお肉。お肉が目立たない肉じゃがは一気に貧相な印象を与えてしまうので、極力、上のほうに盛りつける。これはショートケーキで言うところのイチゴに相当する存在ですから。逆にしらたきなんていうのは刺身のツマみたいなものだから、あってもなくてもいい。かろうじて見えるくらいで、全体のバランスが取れるはずです。
……能書きだけは立派な私である。そして盛り付けが完了した肉じゃがはこちら。
「これはクオリティ高いですよ、普通に美味しそうじゃないですか!」と感嘆する編集者。
だから言ったではないか。ファミレスの料理は学生バイトでもマニュアルを読めば作れるが、コンビニ食材なんてそれ以上に差が出ないもの。プロもアマもない世界なのだ。
そしてここからは、プロの料理研究家のターンである。樋口さんは、おもむろにレンジで肉じゃがを温め始める。
「煮物に関しては、大きいものから先に盛り付けるというのがセオリーなのですが……」と言いながら、いきなり不可解な動きを見せ始めた。
小野田:ちょっと待ってください、樋口さん! 袋からいきなり料理を皿に出すのではなく、ボウルに入れてから盛り付けていませんか?
樋口:ええ。たしかに一度、移し替えています。そっちのほうが全体の具材が把握しやすいですからね。
……こともなげに言う樋口氏。その手があったか……。この時点で一本取られたという気持ちである。
樋口:和食の盛り付けは山型になっていないといけません。したがって土台となるじゃがいもを先にお皿に配置します。そして、このじゃがいもの上にお肉をのせていくと。
小野田:あれ……? 自分が買ってきた肉じゃがよりも、樋口さんのやつはお肉がずいぶん多い気がしますね。ひょっとして西東京地区のコンビニはお肉をケチっているのかな。
樋口:そんなわけないじゃないですか(笑)。同じ商品を提供しているのが全国展開するコンビニなわけで。
それはさておき、ニンジンがポイントになるという小野田さんの指摘は正しかったですよ。でもこの場合は、ニンジンを手前と奥にバラして配置します。
小野田:ニンジンをまとめるのはダメでしたか。
樋口:そして最後に肉汁をかけることで、具材にツヤが出て、美味しそうに見えてくるはずです。
そして、この際に意識すべきは、皿の余白なんですよね。皿の中で余白が3割から4割。料理は6割から7割。これが鉄則。
小野田:そんなにスペースを残すんですか!? 「小さい皿にたくさん入れて、大盛り感を出す」という作戦は間違いだったんですね……。
樋口:あとは余裕があれば小ネギなどを散らすと、より鮮やかになるでしょうね。こんな感じで……。
すごい。これがプロの実力か……。しかし同じコンビニ食材なのに、ここまであからさまに違いが出ることに驚きを禁じえない。(※写真のクオリティに差が出ないよう両者iPhoneで撮影)
樋口:小野田さんのお皿は、根本的にニンジンの位置が間違えているんですよね。なぜニンジンがアクセントとして重要かというと、目線を皿の中央に持っていきたいからなんです。
小野田さんの場合、ニンジンに釣られて目線が皿の左側に集中してしまうじゃないですか。
小野田:たしかに言われてみたら……。
樋口:小野田さんの盛り付けも、いい点はあるんです。それは食材がグループ分けされているところ。具材のバランスは決して悪くないですよ。だからニンジンを中心部で散らすだけで、かなり改善されるでしょうね。
小野田:ちなみに、今回の主役は何にすればよかったんですか? 肉じゃがなので肉を目立たせるべきだと考えたのですが……。
樋口:その発想は正しいですよ。というか、主役は自分で決めていい。逆に肉ではなくてじゃがいもを食べさせたいのだったら、じゃがいもを目立たせればいいわけで。そういう意味では、作り手の意図を明確にさせる作業は大事ですね。
小野田:「意図」か……。自分はなんとなく並べていただけでしたね。
樋口:そして最後に汁をかけるわけですが、これは表面がしっとりしないと美味しそうに見えないからです。加えて、その汁で余白のバランスを調整するわけです。ちなみに僕の場合、汁を全部は使っていません。これも一度袋からボウルに移すメリットですね。
……まさに完敗であった。いきなりKOされた気分だ。樋口さんから伝授された「盛り付けの奥義」。果たして自分なりに消化して次のラウンドで勝利を掴めるのだろうか?
【第2R・ハンバーグ編】
次の食材はハンバーグ。これは肉のジューシーさを演出することが勝負ポイントとなるだろう。しかし、私としては食材を買ったコンビニに異議申し立てをしたい気分だった。
ハンバーグに合わせる副菜選びが難航したからである。
本来であれば、ニンジンが欲しかったところだが、単純に売っていなかったのだ。そのため苦肉の策で「グリル野菜の盛り合わせ」をセレクトした。ズッキーニ、赤・黄ピーマン、ナスなどが入っているため、皿の上はカラフルになるだろう。そして、大手ステーキショップでよく見る「焼きとうもろこし」も添えることにした。
ここでハンバーグのパッケージを見てみると、湯せんでもレンジでも作ることが可能だと書かれている。ここはちょっとした悩みどころ。レトルトのカレーは湯せんした方が良さそうだが、なんとなくハンバーグはレンジでも変わらないような気がする。
すると樋口さんも「ハンバーグの場合はレンジでも湯煎でも味はほとんど変わらないと思いますよ」と背中を押してくれた。
数分後、ハンバーグと付け合せの温めが完了したので、早速盛り付けに移っていく。
小野田:先ほど和食は真ん中から高く盛るというのが基本だと教わりました。ただし、洋食にはそのメソッドが当てはまらないはずです。
それは、外食でハンバーグやステーキを頼むと、手前にメインの肉が配膳されているイメージがあるからです。それから肉じゃがのニンジンは適度に散らすようにと言われましたが、ハンバーグの副菜はさすがに同じスペースにまとめるべきかと。たとえばトウモロコシがバラバラに散らばっていたら、あまりにも滑稽ですから。
……そして、ここまで順調に進んでいたかに思えたが、レンジで温めたハンバーグを皿に移した瞬間に想定外の事態に焦りを覚えた。
ハンバーグのソースが非常に多いのである。
ハンバーグ単体で考えたらこれでいいのかもしれないが、これでは同じ皿にのった野菜がハンバーグのソースでグチャグチャになるのは明白。ここは思い切ってキッチンペーパーでソースを拭き取ることにした。
樋口:ずいぶん大胆なことをしますね(笑)。
小野田:大胆に見えるかもしれませんが、勝負に勝つためには必要な作業です。ただ、ズッキーニの皮目を目立たせるなど、繊細な心遣いも忘れていませんよ。
……程なくしてハンバーグの盛り付けが完了した。
我ながらなかなかうまくできたんじゃないかと思うのだが、いかがだろうか。
ただ正直、不本意な点もある。ニンジンが手に入らなかったことに加えて、焼きとうもろこしが鮮やかな黄色でなかったことも誤算のひとつ。しかし、与えられた条件の中でやれることはやった。そんな充実感すら覚えるほどであった。
そしてバトンタッチで、樋口さんの盛り付け作業が始まった。
樋口:僕は副菜に「ベーコンとほうれんそうのソテー」と「ポテトサラダ」を選びました。そして今回の一番のポイントは、ハンバーグを温めたあと、皿に盛る前に袋自体をよく振ることだと思います。そうすることで油が乳化して分離しなくなるんです。ソースにとろみも生まれるので、お皿に流れてしまうこともないんですよ。
……ん? 袋をシェイク? そんなことは今まで誰も教えてくれなかったぞ。ただ、画面越しに見る樋口さんのハンバーグソースは、別物のように美味しそうなのである。
樋口:いいですか。「美味しそうな料理」というのは、「実際に美味しい状態」で出されているからそう見えるんです。つまり目先の盛り付けテクニックより前に、料理を最適な状態で提供することを第一に考えたほうがいい。
そのため、ここではレンジで温めたあとに混ぜる必要が出てくるんですね。ちなみにハンバーグの配置イメージは、中心より少しだけ手前。そこに付け合わせを盛っていきます。
……なるほど。たしかに樋口さんの言うことはいちいち理にかなっている。そして盛り付けで肝となる色彩の問題について、さらに踏み込んだ説明をしてくれた。
樋口:それと小野田さんの盛り付けは、使用している色が多すぎるという問題もありますね。
小野田:どういうことでしょう?
樋口:これはウェブデザインの基本と同じなんですけど、一度に使う色はせいぜい3色から4色までに抑えておいたほうがいい。そうしないと、ガチャガチャした印象になってしまうんです。
小野田:それ、自分も雑誌の表紙を作るときにいつもデザイナーから注意されていました。ところで樋口さん、ほうれんそうやポテサラは1袋にしては少なくないですか? かなり残している状態ですよね。
樋口:そうですね、そこはバランスを優先的に考えます。では余った食材はどうするかというと、別の皿によそってテーブルの真ん中に置いておけばいい。食べたい人が取るというシステムですよね。そうすることで品数も増えて、食卓もにぎやかになります。
そして、樋口さんのハンバーグが完成を迎えた。
私のハンバーグとはゴージャス感がまるで違っている。コンビニで買ってきた商品をレンチンしただけとは思えないし、普通に店でお金を取れるレベルに見える。
樋口:この盛り付けは、ベーコンの「赤」。それに加えてコーンとポテトの「黄色」、ほうれんそうの「緑」と3色で構成されています。
この「赤」「緑」「黄色」という組み合わせは洋食の基本形なので覚えておいたほうがいいでしょう。それと差し色はパーセンテージとして少ないほうがいいですね。じゃないと、うるさい印象を与えてしまうので。差し色は赤ではなくて緑にするケースもあります。ハーブをポンと上にのせたりとかね。
小野田:そのパターンはよく店でも見かけますね。なるほど……。
樋口:今回の小野田さんは、綺麗に盛りつけようとムキになるあまり、美味しい状態で出すという意識が希薄になっていたと思うんです。残念ながら、これでは本末転倒なんですよね。
小野田:ぐうの音も出ません(笑)。
樋口:あと、小野田さんの皿はコーンの黄色もいまひとつ機能していないんですよね。それだったら、コーンを他の野菜に和えて出してもよかったかもしれない。
いずれにせよ覚えておいてほしいのは、正しい盛り付けを追求すると自然と野菜が増えて栄養バランスも取れるということ。つまり目先の盛り付けテクニックより前に、食材を最適な状態で提供することを第一に考えたほうがいいんです。
……理路整然とした樋口さんの話を聞いていると、「やはりプロの盛り付けは奥が深い」と唸らせられると同時に「コツさえ掴めばプロの盛り付けに近づける」という気にもなってきた。
要は知っているか知らないかの差だけではないか。少しずつではあるが自分の盛り付けスキルも前進しているような気がしてきたところで、次のステージへ進むことにした。
【第3R・パスタ編】
ここでついにトングの投入である。しかし、実作業としてはレンジで温めたパスタを皿に移すだけ。今まで以上に盛り付けで差を出すことが難しいように思える。
しかも肝心のナポリタンを温めてみると、タマネギやウインナーもパスタ全体のオレンジ色に同化してしまっているため、色として唯一アクセントとなるのはピーマンの緑くらい。これは難しい戦いになりそうだ。
とりあえずセンター部分からトングで捻りを加える。このへんはテレビの見よう見まねだ。これまでの樋口さんアドバイスをもとに、ピーマンを散らすことを意識して完成させたのがこちらだ。
樋口:今回の小野田さんの盛りつけは相当レベルが高いですよ。なによりも皿に対する麺の割合が素晴らしい。皿のセレクトもいいですね。パスタのときは平たい皿だと食べづらいので避けたほうが無難なんですよ。
……うれしい。珍しく褒められた。それにしても樋口先生、飴と鞭の使い分けが絶妙である。
樋口:それとトングでパスタを回していたのも素晴らしかったですね。でもトングではなくて皿のほうを回すと、中央に盛る作業は簡単にできますよ。
ちなみに僕はトングではなく菜箸で盛り付けますけど、これは使いやすいほうで結構。先に麺を盛って、あとから具材をバランスよくのせていくのが基本となります。
……そう言ってチャチャッと皿上にパスタを盛り付ける樋口さん。さすがの手際である。
樋口:理想を言えば麺の向きもある程度は揃えたいんですよ。見栄えがいいだけじゃなく、そっちのほうが実際に食べやすいですし。
小野田:えっ、プロの料理人は麺の方向まで気にしていたんですか!
樋口:もちろんです。それと小野田さんが言うように、たしかにナポリタンは色味が乏しくなりがちです。なので僕は粉チーズをかけることにします。(※パスタの中でもナポリタンだけは盛り付け方が別物らしい……)
そして白い粉チーズの上には緑の乾燥パセリ。これで単調さが解消できます。ちなみに今の順番には理由があって、仮にいきなりパセリをパスタの上にかけたら、緑を目立たせることができないというわけです。
……そうして、あっという間に完成した樋口さんのナポリタンである。
なんですか、このノーブルな雰囲気は! しかし粉チーズとは盲点だった。言われてみたらちょっとしたことではあるのだが、コンビニのパスタでその発想は出ないものだ。やはり絶えず色のことを意識していないとダメなのだろう。
樋口:パスタの場合は、最初に麺を盛り付ける時点で勝負がほぼ決まります。まず最初の1~2周で土台の面積を決めてしまうんです。その際も「皿の余白が3~4割」ということを必ず意識してください。
小野田:なるほど。他に自分の盛り付けの改善点はありましたか?
樋口:小野田さんの場合は、具材をもっと麺の上にのせることを意識してほしいのと、欲を言えば端ではなく中央部に具材を集めたほうがいい。盛り付けで大事なのは視線の誘導ですから。アクセントをつけるべきでしょうね。
……むむむ、「アクセント」に「視線の誘導」とは……。今まで外食するときもほとんど気にしていなかったが、確かに言われてみたらどの店にも共通する「盛り付けの規則性」はあるようだ。自分なりに頑張って工夫する前に、まずは基本形をしっかり押さえることが大事ということなのだろう。
【最終R・サラダ編】
さて、最終ラウンドだ。ここまでの知識を最大限活かして勝利を持ち帰りたい所だったが、実はサラダに関しても購入時点で困惑があった。
最寄りのコンビニにミニトマトが売っていなかったので、色として赤が足りないことが明確だったからだ。コンビニ食材という限られた条件の中、どのように色彩を豊かにすればいいのか?
そこで私が取った戦術は「レタスサラダ」と「大根サラダ」という2種類の商品をブレンドさせる手法。その様子を見ていた樋口さんからも「おっ、袋サラダをミックスして使うのはいいアイデアですね!」とエールが送られた。
小野田:彩りに関してですが、カラフルな豆を入れることで、緑一辺倒となるサラダの問題を解消できるのではないかと考えました。それから黄色が足りないということでゆで卵を。赤の不足分をカニカマで補っています。
……コンビニのサラダとはいえ、なりふり構わずリッチ感を演出していることが伝わるだろうか。自分の創意工夫スピリットを極限まで出したのが、こちらのサラダとなります。
完成形を目にした編集者からは「小野田さん、確実に腕を上げているじゃないですか!」とどよめきの声が挙がった。しかし一方の樋口さんは、渋い表情のままダメ出しを始めるのだった。
樋口:小野田さんのサラダは、単純に量が多すぎですね。それの何が問題かというと、下のほうまでドレッシングが行きわたらない。ドレッシングというのは、文字通りドレスするものですから。満遍なく全体にかかっていないといけない。
……そして、ここから樋口さんのサラダの盛り付けが始まった。
まず樋口さんは「最初の段階でドレッシングをサラダと和えちゃうんです」と言いながら、ほうれん草とベーコンのグリーンサラダにドレッシングをかけて和え始めた。
樋口:今回のお皿ですが、皿の縁の部分が一段高くなったモノをリムと呼ぶんですが、これがあると余白のバランスが取りやすいので、リム皿にします。
樋口:トッピングは小野田さんに対抗するわけじゃないですが、ゆで卵を使用してみますね。ゆで卵をザルに押し付けてミモザにして上から散らします。
樋口:さらに黒コショウも少々かけまして……。こうすることで、ミモザのかかっている部分とそうでない部分では当然ながら味も違います。ひとつの料理を食べる中で変化があったほうが、うれしいものですからね。
……そうして盛り付けが完成した樋口さんのサラダがこちらだ。
これがコンビニのカップサラダだなんて信じられるだろうか? 「弘法筆を選ばず」とはよく言ったもので、一流料理人の手にかかれば魔法がかかったように別物になるのだ。
樋口:今回の小野田さんのサラダは、「材料をたくさん使おう」という意気込みは伝わったのですが、逆に主役がわからなくなっていましたね。
サラダに豆を散らすというアイデアは、たしかに色味はよくなるかもしれないですが、フォークからこぼれて食べにくいと思うんですよね。カニカマを入れるアイデアもよかったけど、手で割いたほうが食べやすくなる。
……またしても「食べる人の立場に沿った目線」が欠如していると指摘されてしまった。樋口さんによると、盛り付けの世界では食べる人が右利きか左利きかによって食材の配置を変えることもあるのだという。なんとも奥が深い世界である。
【総括】
最後に樋口さんに盛り付けのポイントを総括してもらった。
樋口:今日はいろいろ言わせていただきましたが、大事なのは最初に完成形をイメージすること。頭の中にスケッチを描いていくんです。そして絶対に忘れちゃいけないのは、食べる人のことを考えるということ。結局は思いやりなんですよ。
……料理は思いやり! ありがたいお言葉を頂戴したところで、ふとした疑問が湧いてきた。樋口さんの盛り付けが色彩的にも素晴らしいのは素人目にも明らかだが、どうやってこの感覚を身につければいいのだろうか?
小野田:どうやったって絵を描くのが下手な人がいるように、盛り付けも結局はセンスの問題という話になってくるんでしょうか?
樋口:経験も大事ですが、普段から盛り付けを意識することでセンスは磨かれていきます。外食をしていて「これは!」と思ったら、すぐそのエッセンスを自炊料理に取り入れる姿勢が大事なんです。同様にテレビや雑誌で見かける料理も初心者には盛り付けのいい教材になるはずです。
世の中には「自分が食うだけなんだから、盛り付けなんて何だっていい」という考えの人もいるでしょう。でも美味しそうな盛りつけを意識すると、実際に味も格段に美味しくなりますから。
それに栄養バランスだって自然に整ってくる。盛り付けというのは決して見てくれだけの話ではないことを忘れず、盛り付けを楽しんでいただきたいですね。
……たしかに樋口さんのレクチャーを受けたあとだと、世の中の盛り付けすべてに「作り手の意図」があるように思えてくる。自分は食べる人に何を届けたいのか。真剣に考えてみるだけで、成長が期待できることは間違いない。
さて樋口さんとのリモート取材から数週間が経過した現在、私の自炊ライフにも大きな変化が生まれた。料理を作る段階から色味や栄養バランスを考えるようになったのだ。
皿に盛った完成形をイメージしながら作ると、たしかに味の面でも自然にまとまりが出てくる。心なしか子供たちも以前より食べ残しが少なくなったようだ。こうなると料理をすること自体が楽しくなってくるから、プラスの面は本当に数えきれない。
とりあえず「余白3割の法則」「赤・緑・黄のバランス」だけでも意識すると、自分の作った料理は見違えるように変わってくるはず。常に食べる人に喜んでもらうことを考えながら、これからも私なりの盛り付け道を突き進んでいきたいと思う。
書いた人:小野田衛
雑誌やネット媒体で仕事をするフリーのライター/編集者。アイドルやスポーツ、貧困問題に関する記事を作ることが多い。趣味はサウナ。特技はサウナ。オフの日の過ごし方はサウナ。
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