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Saturday, December 4, 2021

ワタリガニ料理店の海に近いいけすが保つ鮮度 - 産経ニュース

ワタリガニに最適ないけすの開発を目指している「割烹松屋」の店主、浜田憲司さん=11月25日午後、大阪府泉佐野市(柿平博文撮影)
ワタリガニに最適ないけすの開発を目指している「割烹松屋」の店主、浜田憲司さん=11月25日午後、大阪府泉佐野市(柿平博文撮影)

大阪・泉州特産のワタリガニを多くの人に味わってもらおうと、大阪府泉佐野市のワタリガニ料理専門店「割烹(かっぽう)松屋」が、傷みやすいワタリガニの鮮度を長く保ついけすの開発に取り組んでいる。水温や水質を産地の海に近づけることで、新鮮な状態をキープできるという。「ワタリガニの食文化を後世に伝えたい」との一念で、来年春ごろの完成を目指して試行錯誤を重ねている。

300匹を保管

「生きがいいでしょう」

割烹松屋の店内に設置されたいけすから、店主の浜田憲司さん(60)が1匹のワタリガニを取り上げた。立派な甲羅に覆われたカニは足をしきりに動かしており、見るからに鮮度がいい。同店は昭和39年に浜田さんの父、敏雄さんが創業した全国でも珍しいワタリガニ専門の料理店だ。

ワタリガニは主に瀬戸内海、大阪湾、愛知県沖などで水揚げされる。オスの身は蒸しガニや炊き込みご飯など多彩な料理になり、メスの内子(卵巣)も美味とされる。大阪では岸和田市の「岸和田だんじり祭」などの祭礼で昔から提供されてきた「ふるさとの味」でもある。

割烹松屋の店内には2つのいけすが設置され、多いときで約300匹のワタリガニを保管している。「毎日、朝昼夜の3回、1匹ずつ出して鮮度を確かめて記録しています。全滅する日も年に数回あり、毎日祈るような気持ちですよ」。水は濁りやすいため、週1回は内部の掃除を欠かさない。

ワタリガニは、ズワイガニやタラバガニなどと比べて繊細とされる。いけすでは長くて1週間持つが、少し環境が変わるだけでストレスを感じて弱り、死んでしまう。死ぬと鮮度が大きく失われるため冷凍保存はできない。傷みやすいうえに、ショックを与えるとすぐに手足が取れてしまうので、調理の際はいけすから出して1分半で手際よくさばく技術が求められる。

216万円の寄付

顧客の予約に合わせて新鮮なワタリガニを調達し、最高の料理を提供するためには「常時100匹程度を良い状態でストックしたい」。ところが近年は水揚げ量が減ったこともあり、仕入れのタイミングが難しい。浜田さんは「もうやめたい」と思うほど頭を悩ませてきたが、あきらめることはできなかった。

「割烹松屋」の店内に設置されているいけす=11月25日午後、大阪府泉佐野市(柿平博文撮影)
「割烹松屋」の店内に設置されているいけす=11月25日午後、大阪府泉佐野市(柿平博文撮影)

そんなとき、ある水槽業者からもらった助言がヒントになった。「水道水で産地の海と同じ水温と塩分濃度にした方が死なない」。先代の店主である父からは「カニが動いて傷つかないように海水で16度より1、2度低くする」との鉄則を授かっていたが、浜田さんは生息環境の再現に挑戦。水道水に塩分を加え、大阪湾産は16度、瀬戸内海産は14度で保つことにした。

試行錯誤を2年ほど続け、一定の効果を実感したことから、「海の環境に近い水温、水質のワタリガニ専用いけす」を本格的に開発しようと決心した。今年8~10月には、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを実施。目標額の320万円には届かなかったものの、100人から計216万円の寄付が集まった。広さや深さ、浄化装置など「海」に近づけることができる方法を専門家に聞きながら研究し、完成させたいという。

浜田さんには、ワタリガニを届けてくれる地元のほか、愛媛県や山口県の漁師らの期待に応えたいという思いもある。新型コロナウイルスの影響で営業できない飲食店が続出し、せっかく取れたにもかかわらず行き場を失ったワタリガニも少なくない。「支えてくれる人たちに恩返しをしたい」。地元の特産を愛してやまない店主の挑戦は続く。(牛島要平)

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