「ノイズがなければ本質的なことは何も起こらない」
(Nothing essential happens in the absence of noise)
フランスの経済学者であり,オーケストラ指揮者なども務めるJacques Attali(ジャック・アタリ)氏は,著書「Noise: The Political Economy of Music」(邦題:ノイズ――音楽/貨幣/雑音)で,こう述べました。シャイニングフィンガーでお馴染みギム・ギンガナム御大将が「マニュアル通りにやっていますというのはアホの言うことだ!」と述べていたのも似たような話で,マニュアル的な整然としたことは物事のうわべをなぞるだけに留まり,本質性すなわちプリミティブなカオスにはリーチできません。
つまり何らかの本質性にリーチしようと思ったら,ノイジー&フレンジーなノリでグルーヴィーに,ドラスティックに,そしてセクシー&キュートに振る舞う必要があります。実のところセクシー&キュートは要らないかもしれませんが,つまり先日掲載した「買い物Surfer」の記事みたいに,セガのビッグネームにAtariや任天堂の製品をぶっこむのは,そうすることで何かが見えてくるかもしれないからやってみるわけです。
うん,企画・制作しといて言うのもなんですが,寿司とカレーとピザが同じ皿に乗ってるみたいな雰囲気ですね。まあHiro師匠的には楽しんでいただけたようなので,筆者としては満足です。レゴブロックの本質性に触れた気もしなくはないですし。
というわけで東京ゲームショウ2022などでいろいろあったり,むしろリソースを食われていたりもしましたが,細かいことは置いといて今回はカオスなAtariのゲーム「Atari Mania」(PC / Nintendo Switch)でやっていきましょう。4Gamerの連載企画は自然消滅しがちですし,逆に自然復活したって自然現象の範疇でしょう。まあ,どのみち続いても99+α回で終了の予定ですが。カンスト!
あたりはずれ江戸っ子破魔矢マン
ビデオゲームの制作・販売を基幹事業とする世界初の企業,Atariが設立されたのは1972年6月27日のこと。今日までの間に買収されたり分裂したりといった紆余曲折もありつつ,今年で設立50周年です。先述したレゴブロックの「Atari 2600」が発売されたり,Google Stadiaとの提携を発表したり(その3か月後にGoogle Stadiaの終了が発表されましたが)と,いろいろな動きが起こっています。
「Atari Mania」は50周年を記念したタイトルの1つで,Atariゲーム保管庫(原文:Atari Vault, つまりコレですね)を舞台に,さまざまなAtariタイトルをモチーフとしたミニゲームを楽しめます。ただ「50周年」という記念碑的なタイトルでありながら,保管庫はネズミが巣食っていたり,管理人は往年のゲームキャラクターからあまり慕われていなかったりと,妙に自虐的な雰囲気が漂っています。筆者的にはドリームキャストの「セガガガ」を彷彿とさせられるところです。
主人公は保管庫の管理人(caretaker)で,休館日に清掃をしていたところ“デッドピクセル”という異常現象と,そこから生じた“アノマリー”と呼ばれるモンスターに出くわします。アノマリーは複数のAtariゲームを飲み込み,マッシュアップしたミニゲームを繰り出してくるので,それをクリアして保管庫を正常に戻すというのが主人公の目的です。
この騒動を引き起こしているのが,1983年にアーケードゲームとして登場し,1984年にAtari 2600移植版がリリースされた「Crystal Castles」の主人公であるクマのBentleyです。BentleyはAtari ST時代にはAtariの顔役キャラクターにされていたり,2012年のディズニー映画「シュガー・ラッシュ」にもちょっと出ていたりしたキャラクターですが,本作では人々に忘れ去られて過去に葬られることの恐怖から凶行に及んでいます。1980年代の顔役キャラクターが支持を失ってやさぐれている……やっぱ「セガガガ」っぽいな……まあアレクは敵役じゃなかったけど……。
レトロゲームをマッシュアップしたミニゲームと言えば,奇ゲー勢的には2021年に賈船から発売された「スーパーマッシュ」(PS4 / Nintendo Switch)が脳裏をよぎりますが,そういったランダム生成でしばしばやべーのが出てくるタイプではなく,こちらはミニゲームごとに解法が固定されているタイプです。
「Atari Mania」に登場する“「Combat」の戦車で「Warlords」の敵城を攻略しろ”というマッシュアップゲームは,「近代の戦車で中世の城を攻撃したら」のイメージに違わないスーパーイージーぶりながら,操作性が1970〜1980年代のゲームに準拠していることもあって「普通に難しい」マッシュアップゲームも珍しくありません。まず初見殺しされてから対処法を考えるという意味では,プレイフィール的にはKONAMIの「ビシバシ」シリーズに近いものを感じられます。3人対戦に対応していたりはしませんが,「人にヘタとか言うならテメーがやってみろよテメーがよお!」的にコントローラを押し付け合ったり,奪い合ったり,殴り合ったりしながら複数人でプレイすると,より楽しめるでしょう。殴るのは,まあ血が出ない程度に。
その一方,本作はあくまで「旧作をモチーフとしたミニゲーム集」に留まっていて,ノスタルジーの追求や旧作へのリスペクトは薄いと感じられます。バンダイナムコゲームス(当時)が2008年にリリースしたニンテンドーDS用ソフト「ぼくらのテレビゲーム検定 ピコッと!うでだめし」は,数々のクラシックゲームのおいしいところを「ちょっと遊び」できるようなアレンジでしたが,「Atari Mania」にそういったテイストはありません。「Atari Mania」に収録されている「Centipede」ベースのゲームをいくらプレイしても,「Centipede」自体の魅力はほとんど味わえないわけです。
旧作をそのままプレイできるゲームは「Atari Vault」があったり,旧作をモダンにしたゲームは「Atari Recharged」シリーズがあったりするので,「Atari Mania」はそれらとは異なるバラエティゲーム方面に舵を切ったということなのでしょう。「Atari Mania」のSteamレビューは賛否両論となっていますが,本作のコンセプトと「50周年記念タイトル」に期待するユーザーの気持ちが噛み合わず,衝突してしまったという印象です。近年のAtariゲームのラインナップにおける1つとして捉えたら,「こういう味変もアリだね」と言えるとは思うんですけどね。
ただ,「Atari Mania」と本連載の初期に取り上げたデータイーストタイトルのマッシュアップゲーム「Heavy Burger」を比較すると,「Atari Mania」は新しいスタイルを模索しつつも,50周年を気負いすぎたか旧作ファン向けに日和ってしまったか,イマイチ煮えきらない企画になっている感触も否めないところ。もっとカオスでノイジーなゲームデザインでも良かったのかもしれません。
Atari 50周年記念タイトルは「Atari Mania」だけでなく,11月11日には「Atari 50: The Anniversary Celebration」がリリースされる予定です。こちらは「正統派の懐古主義」的な雰囲気ですが,どのようなゲームになるのか。座して待ちましょう。
設立50周年を迎えたゲームブランドのAtariが,90種類ものゲームをバンドルした新作「Atari 50: The Anniversary Celebration」を,2022年11月にリリースする。関係者達のインタビューや,未公開の企画書,アートワークなどを織り交ぜ,歴史を振り返るインタラクティブ博物館としても楽しめるという。
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- プレイ人数:1人
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- PS5:Atari 50: The Anniversary Celebration
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- Xbox Series X:Atari 50: The Anniversary Celebration
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- Nintendo Switch:Atari 50: The Anniversary Celebration
- Nintendo Switch
- ニュース
- ライター:奥谷海人
からの記事と詳細 ( レトロンバーガー Order 88:「Atari Mania」は近年のAtariタイトルの1つとしては悪くない“味変”なものの,ちょっとカオス不足かも編 - 4Gamer.net )
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